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活躍する卒業生 Vol.24

沖本 春樹さん

被爆体験伝承者

法学部 国際政治学科 2011年3月卒業
(現在の国際コミュニティ学部国際政治学科)

学科の学びと留学

大学時代の思い出は2つあります。1つは国際政治学科での学びが大好きだったことです。講義が楽しくて卒業所要単位を満たした後もほぼ毎日、授業を履修していました。授業で学んだ英語でのディベート力は今でも役立っています。また、4年生ではゼミを2つ掛け持ちし卒業論文を2つとも完成させるほど、学びに没頭していました。ゼミでの研究は自分の仮説を検証するため、様々な資料に目を通し客観性をもってまとめる力が身に付きました。これは営業職として働く今、最も役に立っているスキルです。
もう1つは、ニュージーランド・クライストチャーチへの短期語学留学です。アルバイト代を貯めて費用を準備した甲斐あって、6週間の留学では異文化を肌で感じながら、語学力もかなり向上しました。15年経った今でもホストファミリーとは連絡を取り合う仲で、新婚旅行でも彼らの家に泊めてもらいました。

ドイツ・ベルリンでの転機

妻とドイツ・ベルリンを旅行し、第二次世界大戦の遺構 を巡るツアーに参加したことが大きな転機でした。そのツアーでは自分より少し若いガイドの方が、当時の様子を一生懸命に説明していました。その姿を見て、「いま私は戦争について学ぶためにベルリンに来ているけれど、一方であの原爆の事を詳しく知らない。広島を学びに来た人達に、自分からは何一つ8月6日の事を伝えてあげることができない」と痛感し、心に引っ掛かっていました。そのため、被爆体験伝承者*養成事業の存在を知った際には、居ても立っても居られない気持ちで応募しました。

2年間の研修期間

被爆体験伝承者の研修期間は概ね2年間を要しました。初めに被爆の実相を学んだ後、被爆者の方々から直接証言を聞きます。私は当時6歳で被爆をされた梶矢文昭さんの証言を伝承する事となり、研修を通じて直接お話を何度も伺いました。直接は見ていない惨状を目に浮かべつつ、あの日の記憶に思いを馳せながら、原稿を丁寧に書き上げていきました。
研修中は仕事の転勤で栃木県に在住していた為、幾度も広島に出向いて研修をうけるのは大変でした。時には夜行バスで移動し、朝広島に着いて研修を受けた日の夜にまたバスに乗って栃木へ帰ったこともありました。また、原稿作成についても、仕事を終え帰宅した後に睡眠時間を削ることで時間を捻出し約1万字を書き上げました。その原稿を基に計3回の講話実習を行い、全てが広島市から認定された際には達成感がありました。

被爆者の思いを伝える

被爆体験伝承講話は毎日4回、広島平和記念資料館にて無料で聴講することが出来ます。4回のうち1回は英語による講話を行っています。
私は、2023年12月に初めて被爆体験伝承者として講話を行いました。約2ヶ月に 1度順番が回ってきますが、講話の数日前から何度も練習をくり返し、また質問に備えて日頃から 学び直すことを心掛けています。遠方から資料館にお越しになった方にとって、生涯で1度きりの被爆体験伝承講話を聴く機会 かも しれないと思うと準備を疎かにはできません。会社員としての仕事が最優先ですので平日は仕事に集中して、休日の時間を上手く確保しながらこの活動を継続できるようにしています。
伝承者として私は、「自分事として捉えて伝える」ことを意識しています。私が語り継いでいく梶矢さんは、当時6歳だったあの日、街中が燃え上がりそこら中で断末魔の叫びが響く中、地獄のような広島を1人で必死に逃げ延びて助かった方です。その惨状を、当事者でない伝承者が語るには限界があるかもしれません。しかし、私が自分事として受け止めて体験を伝える事で、きっと梶矢さんの思いは聞いている方に届くのではないかと思っています。

被爆体験伝承者としてのこれから

私は伝承者としての活動を通じて、広島で生まれ育った身でありながら、本当の意味での「ヒロシマ」について、何一つわかっていなかったこと、知ろうとしていなかったことに改めて気付かされました。広島ではテレビや新聞から原爆の話はいつも自然と入ってきます。そのせいか、知らず知らずのうちに「当たり前のこと」として受け流してしまっていたのだと思います。広島で起きたあの日の惨状は、決して忘れて良いはずがありません。だからこそ、小学生の頃から何度も聞いてきたあの日のことや被爆者の方々の思いを、今後は私が伝えていく番だと心に決めています。
今はまだ活動を始めたばかりですが、今後は梶矢さんから受け継いだ講話を英語に翻訳して、海外から広島に来て下さった方々に伝えていきたいと思っています。きっと広島修道大学の国際政治学科で4年間「世界に目を向ける大切さ」を学んだ経験が、今度は私に「英語でヒロシマの事を伝えなきゃ」と諭しているのだと思います。

修大生へメッセージ

学生時代を振り返ってみると、大学で学んだ全てが今の私の糧になっています。英語と国際感覚 を磨いた事で今の仕事につながり、海外駐在も経験しました。また、学生時代に学んだ国際政治と近現代史への関心は年を重ねても増すばかりで、それがいつの間にか 被爆体験伝承者へと導いてくれました。人生は一度きりです。「点だと思っていた経験が、後で振り返ると線でつながっている 」というのは有名な話。どうしようか悩んだ時は、思い切って新たな経験に挑戦することをお勧めします。皆さんとどこかでお会いできる日を楽しみにしています。

*被爆体験伝承者・・・
概ね2年間の研修の中で、被爆体験証言者から被爆体験や平和への思いを受け継ぎ、それを語る活動。被爆者の高齢化が進む中、被爆体験を語り継ぐために広島市が平成24年度から養成を始め、平成27年度から活動を開始しています。
※掲載内容は全て取材当時(2024年)の情報です。