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商学部 富川久美子先生

観光を多方面から分析

商学部教授 富川 久美子(とみかわ くみこ)先生

立教大学大学院 観光学研究科 観光学専攻博士後期課程単位取得満期退学
博士(観光学)
専門分野:観光学
主要研究テーマ:観光と地域振興、ドイツの農家民宿とグリーンツーリズム、ヨーロッパのリゾート島、島嶼観光の課題

テキストマイニングの図

廿日市市の観光政策:観光客が集中する宮島から他の地域へ観光客誘致を図っていることが分かる。

私は、ドイツの農村観光をはじめ、観光地の発展の経緯や観光が地域に与える影響、それと環境を配慮した地域の観光政策との関係を研究テーマとしてきました。
2008年に広島修道大学に赴任して瀬戸内海の多島美に魅せられ、研究フィールドは島嶼地に拡大しました。ヨーロッパや東南アジアでは島嶼と言えばリゾート地ですが、開発されていない自然豊かな日本の島嶼では持続可能な観光の推進が求められます。
コロナ禍前、訪日観光客が急増したために、オーバーツーリズムが問題となった観光地がありましたが、経済優先の自治体の政策は観光客誘致を図るところがほとんどでした。

大久野島の英語の口コミ:外国人がウサギへの餌やりや島の景色に満足度が高いことが分かる。

 例えば、「うさぎの島」大久野島では、2014年頃に外国人観光客が急増。竹原市はウサギを生かした観光による客数と消費額の増大を17年の観光政策の目標に掲げました。そこで、大久野島に訪れた観光客の口コミを分析したところ、観光客はウサギとのふれあい以外にも、毒ガスなどの戦争遺跡に興味を持っていること、特に外国人は瀬戸内海の景色を楽しむ人が多いこと、一方、人が多く混雑することやウサギの病気などが気になるという不満があることが分かりました。このまま観光客の増加が続けば、環境問題も観光客の不満も増すことになり、観光客が離れていくことが懸念されます。大久野島の観光政策は、ウサギのみに頼らない景色や戦争遺跡など多様な観光資源を生かし、適正な観光客数と餌やり行動を配慮した持続可能な観光政策への見直しが必要と言えます。
このように、観光政策の見直しや立案には、観光ニーズや観光者の不満を把握する必要があります。現地調査では、自治体や観光の関係者に政策の背景や具体的取り組みや成果を聞き、さらに観光者からは感想や不満を聞き取り、観光者の行動観察によって観光ルートや滞在時間を調べます。自分が観光客になったつもりで、地域の景観や観光施設を確認し、住民の考えをリサーチすることも重要です。机上では、観光政策の内容や旅行口コミサイトにある膨大なデータを基にテキストマイニングを用いて分析します。口コミの中から使われる頻度が高い単語を抽出し、単語同士の関係を可視化するために図に表すと、投稿者がどんな場面や行動でどんなイメージを持つのか、不満は何かなどが一見して分かりやすくなります。

GISによるマップ

屋久島の観光スポットと人口増加:観光スポットに近い地域に移住者が増えたことが分かる。

 さらに、研究ではGISを用いて観光地の空間分析をすることもあります。観光地の発展の歩み、観光施設の展開や人口の推移などの空間的関係を分析し地図上に表したりします。例えば屋久島では、世界自然遺産でありエコツーリズムの推進地でありながら観光による負の効果、特に環境問題が多くの研究者に指摘されています。このため正の効果を明らかにするため、GISを用いて観光資源などと人口増減の空間的関係を分析。地図上に表し、観光が過疎化の抑制に寄与していることを明らかにしました。
このように、現地調査によるアンケート・ヒアリング調査、政策や口コミなどのテキストマイニング、GISによる空間分析などを研究手法として、観光政策の課題を提示したり、事例研究の蓄積を基に観光地の普遍性を説明することで地域の特性に応じた観光の在り方を考察します。

海外での聞き取り調査:村長さんや地元の方に案内していただいた。

 ※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。