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経済科学部 井寄幸平先生

ネットワーク上で円滑な関係を構築するには

経済科学部教授 井寄 幸平(いより こうへい)先生

神戸大学大学院 自然科学研究科 システム機能科学専攻博士後期課程修了
博士(学術)
専門分野:実験経済学、経済シミュレーション
主要研究テーマ:経済実験とシミュレーションによる意思決定および協調行動の分析

実験室の様子

ネットワーク上での協調関係について、経済実験とシミュレーションによる分析を行っています。例えばインターネット取引で「高い利益をあげるにはどうしたらいいか」、SNSでのやり取りなどで「長く良い関係を築けるのはどんな人か」といった問題の分析に生かせると思っています。
「経済実験」では経済学の理論が考えている状況をシンプルなゲームに置きかえ、実際に人が参加してやり取りを行います。

実験用画面

例えば有名な「囚人のジレンマ」は、相手に対して「協力」か「裏切り」のどちらかを選ぶ単純なゲームですが、相手の行動に関わらず「裏切り」のほうが高い利益を得られるものの、互いに裏切るよりは互いに協力したほうが利益は高い、という矛盾を含んだ形になっています。これは商取引にも応用することができ、「協力」は真摯な取引、「裏切り」は詐欺や代金の不払いのように考えることができます。
「シミュレーション」では、実験だけでは難しい大規模かつ複雑な問題をコンピュータを使って取り扱うことができます。実験では数十人で数十回程度の繰り返しが限界ですが、シミュレーションであれば数百、数千人以上の参加者で何度でも繰り返すことが可能です。また、ゲームの条件や取り扱う金額にも制限がないため、非常に高額な取引や実現の可能性が低い難しい条件での取引を仮定するなど、現実に即した内容から極端な場合まで、さまざまなパターンを試すことができます。

シミュレーションの一例

この実験とシミュレーションを組み合わせることで、現実社会の問題の理解が深まると考えています。個人の基本的な行動原理を経済実験で見つけ出し、そういった人々が多数、長期間参加する現実の市場ではどのようなことが起こるかをシミュレーションで調査するなど、それぞれの長所を生かした分析が可能になります。

実験とシミュレーションの比較

これまでの研究では、ネットワークを通じて自分で相手を選び、利害関係のあるゲームをする場合、「知らない相手でも最初から協力的に振る舞うこと」、「ただし相手が協力的でなければ素早く自分の行動や相手を変更すること」が高い利益を得たり、長期的な協力関係を構築したりするためのポイントであると分かりました。現実社会においても、最初から積極的に相手に好感を持たれる行動をすること、もしも上手くいきそうになければこだわり過ぎずに素早く関係を見直すこと、などがネットワーク上での円滑な取引や関係構築につながると考えられます。例えば初めて取引をする相手に対し、最初から高圧的な態度に出たり、相手に不利な条件を提示したりすることは継続的な利益につながりません。知らない相手に常に協力的に振る舞うことは、時には詐欺や不払いに遭うなどの危険性も孕んでいますが、そうした被害を受けてもすぐに関係を断つことでトータルとしては高い利益を得られ、適切な相手と長く良い取引を続けられる可能性が高いと言えます。
※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。