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経済科学部 新宅公志先生

外資系企業誘致策の効果についてシミュレーションモデルの開発

経済科学部 准教授 新宅 公志(シンタク コウジ)先生

京都大学大学院経済学研究科経済学専攻博士課程修了 博士(経済学)
専門分野:国際経済学
主要研究テーマ:外国直接、グローバル・サプライチェーン、貿易と技術選択、貿易と労働

研究テーマ

私の研究の問いは「どのように外資系企業を誘致すれば、地元企業による専門化(産業集積)、新技術導入が可能になるか」です。どのような誘致策がどのような効果をもたらすのか?ということをシミュレーションできる数理モデルの開発が私の研究テーマです。

外資系企業とは何か?

日本にとっての外資系企業には、Amazon、Apple(iPhoneのメーカー)、ファイザー(新型コロナのワクチンの製薬会社)などがあります。これらの会社の本籍(親会社)はアメリカにあります。ですので、日本で活動するこれらの会社は子会社となります。この子会社のことを日本にとっての外資系企業と言います。 

外資系企業の誘致に積極的な政府や地方自治体

日本政府は、外資系企業を日本に呼び込むために「対日直接投資促進戦略」といった戦略・プランを掲げています。さらに政府だけでなく、愛知県の県庁や経済界、名古屋大学などから構成される「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ協議会」も外国企業の幹部を招待し、交流会などを開催しています。

外資系企業を誘致する理由1:最先端技術の地元企業への移転

自動車の製造を考えてみましょう。エンジン、ブレーキ、車体、タイヤなどの伝統的な分野では、日本が非常に得意です。しかし、最近の車に搭載されている自動ブレーキなどのような新分野のモノを作るには、自分たちで一から試行錯誤するよりも外国企業と技術提携や共同開発した方が早い場合があります(外資から地元企業への技術移転)。世界的には、地元の部品メーカーに対して技術移転が起きやすいことが指摘されています。 

外資系企業を誘致する理由2:地元企業による専門化(産業集積)

 これまで多くの日本企業(電気機器や電子部品メーカーなど)が台湾に進出してきました。
とりわけ、サイエンスパークと呼ばれる工業団地・経済特区に進出しました。これら日系企業による地元企業への要求水準は高く、これが専門化を進めた地元企業を沢山誕生させました。この産業集積と企業の専門化により台湾のハイテク化が進んだと考えられています。

外資系企業を誘致する理由3:部品の調達、雇用、地方創生

現在、世界的な半導体不足が問題になっています。ソニーとデンソー(トヨタグループの自動車部品メーカー)は、半導体を安定的に調達するために、台湾の世界的な半導体メーカーであるTSMCと共同で熊本県に工場を設立することにしました。
興味深いのはその影響です。この投資規模はなんと1兆円以上と言われています(JR西日本による広島駅の駅ビルの再開発事業費で約600億円)。この工場設立に伴い、熊本県には28社の半導体関連企業が進出することが予定されており、2,700名程度が新規に雇用される見込みです。これが実現すれば熊本県は活性化されるでしょう(地方創生)。 

改めて私の研究

先進国を模擬的に表現する数理モデルで、外資誘致策(政府による外資系企業への補助金)が外資系企業や地元企業(部品メーカー)にどのような影響を及ぼすのかをシミュレーションしています。

主な帰結は以下の通りです。
1. 地元企業と技術提携をする外資系企業のみを選抜して政府が補助金を出すと…
1-a. 地元企業の平均生産性は増大し(ハイテク化)、ハイテク地元企業による産業集積が進む(技術移転と産業集積)。
1-b. 技術提携をする外資系企業で新規参入が、技術提携をしない外資系企業では撤退が起きる(外資選別)。
2. 全ての外資系企業に対して一律に補助金を出す(従来の政策)と反対のことが起こる。
 ここから得られる教訓は以下の通りです。
「外資誘致で、地元企業のハイテク化した産業集積を起こしたいならば、地元企業と技術提携をするような外資系企業に絞って補助金を出すべきである。」
今後は、熊本県のTSMCのケースなどで、各産業の新規雇用の創出・賃金増大にどれほど貢献したのかといったことまで明らかにしたいと思っています。
※掲載内容は全て取材当時(2024年)の情報です。