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国際コミュニティ学部 船津 靖先生

研究室の扉

「国際報道、米・中東政治」を語る

法学部国際政治学科 船津 靖(ふなつ やすし)先生

ようこそ、わたしの研究室へ

今春、広島に転居して来ました。前職は共同通信の編集・論説委員です。核兵器による破壊の残酷さと平和への希望を象徴する世界都市ヒロシマで、国際政治の研究・教育に携わることに意義を見出し、ジャーナリストから転じました。どうかよろしくお願いします。

研究テーマの紹介

「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」
「あなたの意見には反対だ。でもあなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」
どちらも「国際ジャーナリズム論」で紹介した言葉です。前者は19世紀の英ケンブリッジ大学教授の手紙、後者はヴォルテールに関する英作家の本にあります。政治権力は必ず腐敗する、との認識は、権力の分立と監視の必要性を導き、表現の自由、とりわけ権力を批判する言論・報道の自由が極めて重要だ、という主張になります。
表現の自由は、そうした政治的機能に加え、生きる喜びそのものです。私は1991年のクリスマス、社会主義の超大国ソ連が崩壊した日の夜、クレムリン宮殿の近くでモスクワ市民の声を聞いて回りました。改革派と保守派の対立を超え、ほぼすべての人が「言いたいことを恐れずに言えるようになったのはほんとうに良かった」と話していたのがとても印象的でした。
言論・表現の自由を闘い取る、という点で、アメリカのメディアは大きな貢献をしてきました。英語メディアが圧倒的な影響力を持つ現実もあり、米英メディアに多く触れます。一方、イラク戦争の際の愛国報道、原爆投下の正当化など、権力に操作され国家主義に屈した事例も取り上げます。 国際ニュースの理解には時事的な知識が不可欠ですから、米大統領選や「国際テロ」などを解説し、紛争と宗教の複雑な関係について一神教の歴史にさかのぼって説明します。
来年は「アメリカの政治と社会」、再来年は「中東の政治と社会」も担当します。先述したモスクワ、そしてエルサレム、ロンドン、ニューヨークに計約10年赴任した経験を活かしたいと思います。イラク戦争の前後、灼熱のバグダッドを拠点に取材しました。聖都エルサレムでは支局や自宅、娘の学校のそばで自爆テロが頻発し、飲食店が爆破されバスが吹き飛びました。拙著『パレスチナー聖地の紛争』(中公新書)を手にしていただければうれしいです。 どの海外支局でも、対米外交に加え、ユダヤ人という不思議な人々の存在がずっとついてきました。ユダヤ人を軸に国際関係(史)全般をみていく計画です。

職業の志望理由

修大に来て「どうして国際ジャーナリストを志望したのですか?」と時々聞かれました。人生すべからくそうであるように、多くは人の縁と偶然の産物ですが、幼少のころから海外の国々、さらに別の太陽系、古代や遠い未来など「いま、ここ」ではないものに心を奪われる子どもでした。小学生のころ、米ソ全面核戦争後いかに素早く日本人と中国人民主体の「東アジア連邦共和国」を建国し、欧米支配に対抗するか、架空の年表や地図をつくって遊んでいました。思想傾向は国際協調に転じましたが、今に通じる根はこの辺りにありそうです。中学時代は公害や人種差別の小論を発表し、大学では権力や近代化の社会理論などを専攻しました。記者か学者以外の仕事を具体的に考えたことはありません。当時も今も金融は文系職業の花形ですが、金融への就職を考えたことは自分の人生で5秒もないでしょう。とても勤まりません。
記者になったのは原発・環境問題や障害者差別を取材するためでした。英語は、今でこそ商売道具ですが、昔は外国人が近づいて来ると逃げました。地方支局で事件記者だったころ、ミャンマー奥地に出張する機会があり「海外取材はこんなに楽しいのか!」と強烈な印象を受け、方向転換しました。

教育の目標

記者の長時間、不規則労働をこなしながら、どうしたら良書を数多く読破できるか、どうすれば日本にいて英語を伸ばせるのか、試行錯誤を繰り返しました。学生に勉強や実務で役立つ読書法、英語の学習法を指導したいと思います。
仕事柄、ノーベル賞受賞者から殺人者までさまざまな人々と会ってきました。就職面接は数百人、ES選考はその数倍の学生を担当しました。いろんな成功や失敗を見てきましたし、自分の反省も多々あります。そうした社会経験を学生の将来に役立てられればと思います。

そして学問の楽しさ、学び考えることの喜びと価値を伝えたい。
Solipsism(ソリプシズム)という言葉があります。独我論、唯我論などと訳されます。いま仮に「自己中心的で、他者の存在を軽視する思考」と定義するならば、自己教育を含む教育の目標は、この意味の独我論を超えることにほぼ尽きる、と私は考えます。カフカに、「君と世界の戦いでは、世界を支援せよ」という奇妙な言葉があります。私はこれを、独我論を超えよ、さまざまな他者が渦巻く客観世界の圧倒的な重要性を認識せよ、という意味に解します。それは「知ることは自分の無知を知ること」と弟子たちに諭した、古代ギリシャの哲人の教えにも通じます。

プロフィール

法学部国際政治学科/船津 靖(ふなつ やすし)教授
東京大学文学部社会学科卒業

▽専門分野
国際報道、米・中東政治
▽主な研究テーマ
紛争と宗教、ユダヤ人と国際政治

※掲載内容は全て取材当時の情報です。