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人文学部 水野和穂先生

英語はいかにして世界の共通言語に発展したか

人文学部教授 水野 和穂(みずの かずほ)先生

広島大学大学院文学研究科博士課程修了
博士(文学)
専門分野:英語学
主要研究テーマ:近代・現代英語の多様性と変化


わずか15万人のことばだった英語は、いかに約20億人が使う世界の共通語に発展したのでしょうか。

ドイツやデンマークの北部で話されていたゲルマン諸語をルーツとする英語が、1500年の間に古ノルド語、ラテン語、フランス語など、他の言語が英語に影響を及ぼしつつ現代の標準英語が成立したかについて研究しています。特に、英語がイギリス帝国の影響から、入植者による植民地化、奴隷制や貿易、搾取による植民地化、そして近年のグローバリゼーションなどによって、アフリカ、アメリカ、インド、中国、そして、日本語を含めた世界の諸語を吸収しつつ、世界各地に広がり、世界第一の言語、世界共通語になった最近の歴史について関心があります。英語は、約20億もの人々が使う言語に発展したので、全員が母語話者ではなく、公用語、外国語として英語は用いられています。日本では、英語と言えばアメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドといった英語を母語とする人々が多く住む国の言語であると思われがちですが、英語が使われている現状を考慮すると、英語は決して英語の母語話者だけのものでありません。英語のオーナーシップ(英語は誰のものか?)という大変興味深い問題も生じています。

現在では約20億人もの言語に成長した英語ですが、その道のりは決して平たんなものではありませんでした。英語の歴史は、古英語(5世紀半ば~11世紀)から現代英語(20世紀~)にいたるまで、いくつかの時代に区分されますが、古英語の時代には、北欧よりバイキングの来襲(9世紀から11世紀)がありました。英語の歴史上、最もその存在が危うい状況になったのは、1066年のノルマン人(現在のフランス北部にいた民族)によるイングランド侵攻、征服です。その事件以降、フランス語の政権が確立され、数世紀の間、英語は平民の言語とみなされ、フランス語を話すことが政治、法律、行政、貴族社会でのステータスとなりました。この時期、英語は絶滅の危機に瀕した言語であり、英語に対する社会的制約は、死滅しかけた言語の様相を示していました。しかし、フランス支配の後期になると、英語は国民の誇りの象徴として肯定的に捉えられるようになり、やがて1362年からはフランス語に代わって国の公用語として使われるようになったのです。

以上のように、1500年に渡る英語の発達の歴史は、いわば波乱万丈の冒険と言えます。では、実際の英語の歴史の研究方法を紹介します。過去の事実の研究ですから、昔の英語の文献を読んでその中から当時の英語の特徴を見出していく地道な作業に取り組みます。フィールドワークこそ行いませんが、恐竜の骨や昔の宝物を発掘する考古学にも似たところがあります。伝統的な目視による文献調査に加え、現在では電子化された古い英語のデータベースを専用のソフトウェアを用いて分析する方法も一般的になってきました。

現在そして未来の英語の特徴を理解するためにも、英語の冒険の歴史をたどってみませんか?
 ※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。