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国際コミュニティ学部 木原 一郎先生

研究室の扉

「市民参画や市民学習」を語る

国際コミュニティ学部 木原 一郎(きはら いちろう)先生

ようこそ、わたしの研究室へ

市民の声により駐車場から今の姿になった広場(ポートランド)

私が現在研究している領域は多岐にわたり、共通性があるようには見えません。何事もまずは取り組むと考えていますので、研究の共通点はきっと見つかると私自身に言い聞かせていましたが、なかなか言語化できない時期がありました。そんな時にあるセミナーで訪れた街がアメリカ西海岸オレゴン州のポートランドでした。そこで「Community based」という言葉を知ったのです。どうやら私が実践・教育・研究で行っていることは「Community Based Urban/LocalDesign」ではないかと一つの造語にたどり着きました。その中でも現在最も力を入れていることに絞ると今回のタイトルになった次第です。

「Community based」

多様な人が参加する対話の場:民間企業・行政・大学

「Community based」という言葉にたどり着く前は、研究者としてはあるまじきことですが、「コミュニティ」という言葉を特別なもののように期待や希望を持って拡大解釈していました。そのセミナーで学んだのは「コミュニティ」とは共通項があること、利害関係があることであり、どこにでも存在するごく普通の集合体だということでした。また、そのセミナーが開催されたポートランドは渡航前の下調べで市民の声によって今の姿になったと知りました。しかし、実際に訪れてみると市民の声をベースとすることはもちろんのこと、トップダウンとボトムアップのバランスのとれた街なのではないかと感じました。コミュニティも市民発のものだけでなく行政発のものや、法や制度に裏付けされたものもあり、そのようなさまざまなコミュニティが時には行政の仕組みのもと、時には自発的に連携しています。また、上記のようなボトムアップな取り組みに加え、さまざまな場面をオープンにし、多様な方々が関わることによってトップダウンも市民の声がもとになっています。このような「Community based」なまちづくりにより、全米で最も住みやすい街の一つと称される姿をなしていることがわかったのです。

広島に長年住んできましたが、どうやらその点のバランスがあまり良くない印象を受けています。広島ももっと住人が誇りを持って住み続けたいと思える街になってほしい。世界中の人もその住みやすさに、そして国際的平和都市として注目してもらえる、魅力を感じてもらえる街になってほしい。そんな想いから現在に至っています。

「Community based」な実践

その考え方をもとに多くの実践をしています。ひろみらイノベーションスタジオに認定されている「広島都心デザイン推進会議」がその最も特徴的な取り組みです。広島都心部(特に紙屋町・八丁堀地区)におけるエリアマネジメント活動の定着・推進にむけて、さまざまなコミュニティを(大きく受け入れながら)つなぎ、多様な人々で対話をしながら街のプロトタイプ(ビジョン)を作っています。 他にも西区横川町の横川エリアマネジメント連絡協議会では、「横川駅南側はにぎわいを横川駅北側はやわらぎを」という大きなビジョン実現のための実践として横川6大イベント(ふしぎ市/よこがわ・川・夏フェス(ガワフェス)など)に協力しています。また、東広島市で株式会社サタケが行っている豊栄プロジェクトへの参加など多様なコミュニティのつながりを基盤としたまちづくりの実践にお力添えしています。

地域課題解決のための仕組みを当事者意識を持つ多様な関係者がともに考える場

「Community based」な教育

対話により発案された広場のあり方の社会実験(横川)

教育も同じ考え方を用いています。学生は座学に加えて、どのように地域社会を持続可能なものとしていけるかを地域住民や民間企業や行政の方々と、それぞれが多様性の一要素として対等な立場で検討・実践していきます。大学としてはこれにより実践力と協働力を持った人材を育成します。地域側(協働した学生以外の方々)にとっても、多様な方々と魅力のある持続可能な地域をつくる方法や考え方を学習する機会となります。このように地域にも実践力と協働力の素地ができることを目指します。今年度の地域行政学科1期生の授業では、行政の皆さんと広島都心部の 紙屋町・八丁堀の民間企業の皆さん、西区横川町の商店街や地域住民の皆さん、西広島駅周辺では民間企業の皆さんと協働させていただき、後期は中山間地域に伺う予定です。

「Community based」の ための研究

研究は大きくは3つの柱があります。1つ目はまちづくりの話し合いを進める際に専門性の高い知識や技術を必要とする場面についてです。一般市民の方も抵抗なく参加でき、一般市民からの意見自体も専門家の意見と対等に検討され、今後の方針や検討項目の内容に組み込む方法の研究をしています。2つ目はその話し合いの場はどのような空間が最適なのかについてです。その一端を明らかにするために「FutureCenter」という都市施設の空間構成を研究しています。3つ目は都心のプロトタイプ(ビジョン)を考える上で必要かつこれまで調べられていない基礎データの検証と実際に調査をしデータ収集をしています。

一見すると共通性はありませんが、「Community Based Urban/Local Design」を実践する手法である「対話」の方法やそのために必要な空間、そして「デザイン」する上で必要な情報について研究しているわけです。コツコツと進めています。

「 市民参画や市民学習 」

多様な人が参加する対話の場:地域住民・NPO・学生

「Community based」を実践していく上で、市民の声をベースにすること、多様な方に参画してもらいやすいオープンな場にすることなど、さまざまな注意点がありますが、基本となる手法は「対話」と「デザイン」だと思っています。 
タイトルの「市民参画や市民学習」を紐解くと、対話への敷居を下げ、市民が参画しやすい場をデザインできるか。専門性も伴って有意義な対話ができるか。そしてそれを実践・定着させるための戦略をデザインできるか、押し付けがましくなく学習してもらうようにデザインできるかだと思います。これまでを振り返ると「Community based」の中でもそこに力をいれて取り組んでいるように思います。
ポートランドの事例や学んだことを活かして広島の魅力・住みやすさを高めながら、逆に広島の事例を世界中から参照してもらえるように取り組んでいきたいと思います。

プロフィール

国際コミュニティ学部/木原 一郎(きはら いちろう)准教授
広島大学大学院 工学研究科 社会環境システム専攻博士

▽専門分野
地域コミュニケーションデザイン、都市環境デザイン、建築意匠学
▽主な研究テーマ
合意形成や未来に関する対話の「場」の設え

※掲載内容は全て取材当時の情報です。