1. ホーム
  2. 研究
  3. 研究クローズアップ
  4. 人文学部 河口和也先生

人文学部 河口和也先生

性的マイノリティへの社会意識

人文学部教授 河口 和也(かわぐち かずや)先生

筑波大学大学院 社会科学研究科 社会学専攻 博士課程単位取得満期退学
国際学修士、修士(社会学)
専門分野:ジェンダー、セクシュアリティ、社会学
主要研究テーマ:現代日本社会における性をめぐる諸問題に関する研究

近年、日本社会においてもLGBTQ+や性の多様性への注目が高まってきており、以前に比べたら、LGBTQ+の人々に対する寛容度は高まってきています。特に若い人の間では、LGBTQ+の友人や知り合いが身近にいる割合も高くなっており、性的マイノリティに関する情報も各段に入手しやすくなりました。これはインターネットやSNSの広がりと関連しているのかもしれません。しかし、すべての場面において受容的になっているとは限りません。
LGBTQ+の人々の生活をめぐる法律や制度が整えられることにより、社会の中で暮らしやすくなることはもちろんあります。しかし、社会意識の中では、非常に受容的になっている部分とそうではない部分が存在します。このところ自治体の中には、パートナーシップ制度を開始するところも増えてきました。この制度は、2015年に東京の渋谷区と世田谷区で始まり、今や人口カバー率でいえば65%以上の自治体でパートナーシップ制度が実施されるに至りました。広島県内では、広島市を始め、7つの自治体(2023年3月時点)で行われています。
私が主宰している研究チームは、15年と19年に全国の20~79歳の男女に対して性的マイノリティについての意識調査を行いました。この調査は、住民基本台帳によってランダムサンプリングをした学術的なものになります。15年には1,259名から、19年には2,632名からそれぞれ回答を得ました。その調査結果によると、同性婚に賛成している人の割合は、15年に51.2%でしたが、19年には64.8%に増えています。もちろんパートナーシップ制度は、同性婚とは異なる制度ですが、パートナーシップ制度の広がりにより社会では、性的マイノリティがカップルで生活する上での困難や直面する問題などが理解され始めているからかもしれません。
社会意識における寛容度が高まった側面がある半面、身近な人(子ども、きょうだい、職場の同僚、近所の人)が同性愛者だった場合について意識を聞いてみると、いやだと回答した人の割合は、19年調査では「子ども(61.2%)」「きょうだい(53.1%)」「同僚(28.3%)」「近所の人(27.6%)」となり、子ども・きょうだいと同僚・近所の人の間で大きな差があることが分かりました。つまり、身内に性的マイノリティがいると否定的にとらえる人が多いことが分かった訳です。となれば、性的マイノリティが家族に対してカミングアウトをする際に、大きな抵抗が待ち構えている可能性が高いということになります。性的マイノリティの社会意識の研究では、こうしたことが実証的に明らかになります。
これらの調査の中では、すべてではないにせよ同じ設問項目を複数の時期に調査することにより、時間を経て人々の意識の変化を見ることができます。たとえば、同性婚に対して賛成している人の割合は、15年に51.2%でしたが、19年には64.8%に増えています。こうしたデータは社会学の研究に使われますが、他方でメディアや自治体/民間企業の取り組みにおいても利用されます。このように、研究というのは、大学の中だけではなく、社会におけるさまざまな活動にも非常に緊密につながっているものといえます。

※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。