1. ホーム
  2. 研究
  3. 研究クローズアップ
  4. 〔特集〕新型コロナウイルス感染症流行下での研究

〔特集〕新型コロナウイルス感染症流行下での研究

※掲載内容は全て2021年当時の情報です。

ビッグデータやAIを活かした観光研究

商学部商学科 教授 金 徳謙(きむ とくけん)

2003年立教大学大学院観光学研究科博士課程後期課程単位取得満期退学。修士(観光学)。立教大学観光学部助手、(財)日本交通公社客員研究員、香川大学経済学部教授などを経て2018年より現職。専門は観光学、ビッグデータを題材にする観光研究を行っている。主な著書に『観光学へのアプローチ』(共著)(美巧社)、『これで使えるQGIS入門』(ナカニシヤ出版)など。 

取得画像の撮影箇所と撮影枚数のGIS分析図

私の専門は観光学で、主に観光者の行動に着目し、行動分析(空間分析)、テキスト分析、画像分析などを主な分析手法として研究をしています。3つの共通点は、取り扱うデータの量が多いことや定量分析を行うことです。いわゆるビッグデータを題材にする観光研究といえばわかりやすいと思います。
1つ目の行動分析では、観光者が観光地を回遊する行動を、GPSを用いてデータを収集し分析することで、観光地内での正確な行動パターンを捉えることを研究しています。従来は、観光者にアンケートをとって分析する方法が主でしたが、GPSを用いることによりデータの信頼度が格段に向上することがメリットです。2つ目のテキスト分析では、観光者の意識・欲求・関心やトレンドを分析する研究をしています。SNSやインターネットの観光関連サイト、例えば、Trip Advisorやじゃらん、Google Travelなどの観光関連サイト上に掲載されている口コミなどを収集し、観光者の欲求や意識、観光地への評価(要望)などを分析する研究をしています。アンケートなどによる分析に頼る従来の方法に比べると観光者の本音を読み取ることができるという特徴があります。
3つ目の画像分析では、観光者が撮影しSNSなどに掲載した写真を収集し、居住地別に、誰が・いつ・どのような写真を・何枚撮影したのかなどを分析することで、観光者の関心が寄せられた場所やもの、また観光地での回遊ルートを、いわゆるAI(人工知能)を利用し分析する研究をしています。実際の観光者の行動によるデータを分析するため、観光者や観光地の特徴を正確に分析することができます。データの収集や分析、信頼度の検証などに難点もありますが、従来の研究手法では難しかったことが解明できるメリットもあります。

SNS上から取得した画像データ(約3万5千点)

世界的な新型コロナウイルス感染症の流行により、外国人観光客の訪日ができなくなりました。その上感染症対策のための行動自粛により、国内観光客も激減しています。このような状況下で観光地に赴く研究は難しくなった一方、ビッグデータやAIを用いる研究はコロナ禍でも影響が少なくてすみます。観光者の行動を、データに基づいて分析する研究であるため、研究の結果をだれでも再現することができます。
新型コロナウイルス感染症終息後、観光客は次第に戻ってくると思いますが、ウイルスの流行は観光者の行動を変えてしまっているでしょう。地域間の観光客誘致の激化なども生じ、従来どおりの対応では誘客を含む観光による効果は期待できないと思います。的確な対応のため、観光者のニーズ(観たい・行きたい・やりたい)や、観光者の地域に対するまなざしの変化を、観光者側に即して正確に把握することの重要性が増すでしょう。先述のような研究結果を活かせば、地域や観光業が観光者のニーズにあうモノやサービスを提供することができるでしょう。
この類の研究はコロナ禍によりどん底に落ち込んだ観光を即座に良くする研究ではありませんが、チャンスが来た時、観光者が望むモノやサービスを提供するという、適宜な対応を可能とする必要な研究といえます。 

情報の力で新しい学びを進める!学び方が変わる!

経済科学部経済情報学科 教授 阿濱 志保里(あはま しほり)

2017年山口大学大学院東アジア研究科東アジア教育開発コース博士課程修了。博士(学術)。京都大学大学院医学研究科協力研究員、京都外国語大学、山口大学知的財産センター等を経て、2018年より広島修道大学経済科学部准教授、2021年より現職。主要研究テーマは情報社会学。著書に『インターネットの光と影ver6』(共著)(北大路出版)。

新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2020年2月27日の第15回新型コロナウイルス感染症対策本部の会議において、安倍総理(当時)は全国の小中学校、高校、特別支援学校を対象に2020年3月2日より臨時休校を要請しました。それを受け、文部科学省は「休校措置に関わる要請」を各都道府県の教育委員会に要請しました。要請を受けた各都道府県、各市町村の教育委員会では、休校措置の準備を進めるとともに、休校中の児童生徒の家庭学習を支援のため、ICT(情報通信技術)を活用した学習活動を取り入れることも念頭に検討が行われました。大学も例外ではなく、4月以降になっても感染拡大が続くことから、「3密」を避けた学習環境として、多くの大学で場所を同一としない学び方である「遠隔教育」の実施に切り替えが図られました。
テレワークや在宅勤務などの働き方の変化のみならず、日常の過ごし方、人との距離など、多くの「ノーマル」が「ニューノーマル」として意識づけられる場面も多くありました。大学などの教育機関においても、ソーシャルディスタンスが求められ、これまで「ノーマル」とされていた講義室で多くの人が一緒に学ぶことから、「ニューノーマル」へ『学び方』の変革が求められました。
コロナ禍により、注目を受けている「遠隔教育」ですが、約20年前からさまざまな学習の場面で議論されてきました。これまで文部科学省では「遠隔教育」を特別な学習の方法として位置付けることから始まり、小規模でも大規模授業を受けることができることなど、より質の高い教育活動を行うための方法として推進されてきました。しかし、家庭学習をすべての児童生徒、学生に提供するという目的が新たに加わったことから、大きな転換期を迎えました。

遠隔教育の様子

そこで、2020年4月から5月にかけて、社会状況の変化に伴い、遠隔教育がどのように実施されているか調査を行いました。その結果、遠隔教育は、学習者の学びを継続させるため、「すべての児童生徒、学生のための学習方法」としての役割を担い、学習者の状況に合わせて既存のツールやプラットフォームを活用しながら、さまざまな教育活動が行われていることが分かりました。緊急措置としての位置づけの「遠隔教育」から恒常的な学びとしての「遠隔教育」への議論が進んでいます。「遠隔教育」についてはこれまでの考えや定義を超え、多様な学習者の学びのニーズを支援することが求められています。また、実際の学びを支援する情報通信環境などの学習環境については、すべての学習者に配置し、運用していくことが期待されています。教師側にも学習者側が使いやすい「ユニバーサルデザイン」の考えを基にした学びの環境が展望されます。
コロナ禍の中、持続的な学びを保障することを第1の目的で始まった遠隔教育ですが、最も重要なのは、学習者目線に立った「学習の充実」です。どのような内容をビデオ教材にすることがいいのか、どんな学習内容に効果があるのか、より学習の質を上げるためのICTをどのように活用していくのか、学習者に質の高い学習機会を提供するために実践的な観点から解明していくことは重要です。
教育実践の検証や評価を通じて得られた知見を各教育課程で蓄積・共有し、ICTを活用した学び方の効果を科学的に解明することは、すべての学習者への「学習の機会」の充実につながることになります。

新型コロナウイルス感染は自業自得? 国際比較研究

健康科学部心理学科 教授 中西 大輔( なかにし だいすけ)

2003年北海道大学大学院文学研究科人間システム科学専攻博士後期課程単位取得満期退学。博士(文学)。広島修道大学人文学部講師等を経て2017年より現職。社会的文脈における意思決定について研究をしている。著書に『あなたの知らない心理学』(共著)(ナカニシヤ出版)など。 

今年もわれわれは新型コロナウイルス感染症との終わりの見えない戦いの渦中にあります。昨年の春、私は慶應義塾大学の平石界教授、大阪大学の三浦麻子教授ら※ 1とこの度の感染禍に対する人々の反応データを収集することにしました。2020年の3月から4月にかけて、日英米伊中の5カ国で「内在的公正推論」に関するデータを集めました。内在的公正推論とは「不幸な目に遭ったのはその人が何か悪いことをしていたからだ」と考える傾向のことです。日本人は比較的そうした推論をしやすいというデータがあったため、感染したのは自業自得だと考えやすいのではないかと考えました。具体的には「新型コロナウイルスに感染した人がいたとしたら、それは本人のせいだと思う」と「新型コロナウイルスに感染する人は、自業自得だと思う」という意見にどの程度賛成するかを尋ねました。「自粛警察」の問題についてもよく言われていたので、非常時に人権を制限することについて、どの程度容認するかどうかを尋ねました。「非常時には、他の人たちが政府の方針に従っているか、一人ひとりが見張るべきである」、「非常時には、他の人たちを政府の方針に従わせるために、個々人の判断で行動を起こして良い」という項目です。
調査は2020年3月下旬と4月下旬に行い、各国とも400名以上の一般市民のデータをインターネット調査により収集しました。内在的公正推論についてはどの国も比較的低い値でしたが、その中で最も高い値を示したのが日本でした。「本人のせいだと思う」項目で肯定的な回答をした者は日本15.25%、イギリス3.49%、アメリカ4.75%、イタリア12.31%、中国9.46%でした。「自業自得だと思う」項目でもこのパターンは同様で、日本では11.50%が肯定的な反応であったのに対して、他の4カ国は最も高い中国でも4.83%でした。
自粛警察についての問いに対しては、日本は他国に比べて低い値を示していました。「見張るべきである」項目への反応の平均値は日本が最も低く、「行動を起こして良い」項目への反応の平均値はイタリアに次いで低い値でした。
2020年7月下旬から8月上旬にかけて日英米の3カ国を対象に行われたよりサンプルサイズを大きくした調査でも、2021年3月に5カ国を対象に行った調査でも同様のデータが得られました。
新型コロナウイルスへの感染は、必ずしも本人のせいではありません。予防対策を万全にしている人でも感染しているケースは多くあります。日本人はなぜ、新型コロナウイルスへの感染を自業自得だと冷酷に突き放すようなことをするのでしょうか?しかし、この問いに答える前に、もっと注目すべきことがあるように思います。日本人は確かに、他国に比べて感染は自業自得だと見なす傾向は強いのですが、それでもそう考えるのはせいぜい10%ちょっとです。それ以外の大多数の人々はそんなふうに考えていないのです。日本では強制力を伴わないロックダウンなしでも (今のところ) 他国と比べて被害が低く抑えられています。このことと内在的公正推論がどう関係するかもまだ分かっていません。自粛警察傾向が直感に反して低かった原因も分かりません。分からないことだらけですが、われわれ社会心理学者はデータを地道に集めることで、非常時の人間の心理を少しずつ解き明かしていきたいと考えています。
※1 他の研究メンバーとして、Andrea Ortolani (立教大学特任教授) 、山縣芽生 (大阪大学大学院)、三船恒裕 (高知工科大学准教授)、李楊 (名古屋大学)。