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国際コミュニティ学部 阿曽沼春菜先生

近代における東アジア国際秩序の変容の解明

国際コミュニティ学部 准教授 阿曽沼 春菜(アソヌマ ハルナ)先生

京都大学大学院法学研究科 博士後期課程単位取得満期退学 博士(法学)
専門分野:東アジア国際関係史、日本政治外交史、イギリス帝国史
主要研究テーマ:近代主権国家秩序の拡大、多国間会議と日本外交、20世紀初頭のイギリスの対東アジア政策

私が取り組んでいるのは、近代における東アジア国際秩序の変容の解明です。現在、わたしたちは世界を主権国家の集まり(これを「近代主権国家秩序」 といいます)として見ていますが、近代以前の日本を含む東アジア諸国は、世界を異なる見方で把握していました。東アジアでは、中国の歴代王朝を中心に、その権威が同心円状に外側へと広がるものとして秩序が想定されたのです。加えて、江戸幕府はこの中華秩序の組み込まれつつも、自らがトップとして周辺の権力を支配するローカルな秩序観を発展させていました。
それが、欧米諸国の東アジアへの進出と共に、ヨーロッパ型「国際社会」の概念が輸入されると、世界を「対等な関係にある主権国家とその集合」として捉える見方が主流を占めるようになりました。ヨーロッパでは、中世の権力の分散状態 (国家より広域を掌握するローマ教皇や神聖ローマ帝国皇帝から国内の封建領主まで大小さまざまな権力が混在する状態)から、時間をかけて、国家が独立した最高権力を有する主権国家システムが誕生していったのですが、東アジアでは、その置き換えが急速に生じたところが大きな違いです。その理由は、当時の帝国主義の「食うか食われるか」の風潮の下、東アジア諸国は、西洋の秩序観を早急に学び、そのルールに習熟して、生き残りを図らなくてはならなかったからです。
 私の関心は、こうしたヨーロッパ型「国際社会」の拡大過程で生じる変化です。例えば、東アジアのような地域の秩序観がヨーロッパ起源とされる現代国際秩序の形成に影響を与えている側面はあるのかを明らかにすることにあります。
近代主権国家秩序はある時突如として誕生したのではなく、時間をかけて形をとり、新たなメンバーの加入に伴い変化し続けていると言ってよいでしょう。国家間のパワーの差が著しい現代の国際関係を考える際には、対等な主権国家同士の相互作用としてのみ国際関係を捉えるのでは不十分です。国際秩序の変容を歴史的に考察することは、複雑な国際関係の特徴を理解して問題の本質を掴むために大切です。

現在取り組んでいるテーマは、多国間会議における日本の外交です。第2回ハーグ万国平和会議(1907)における日本の行動を調べています。この会議は、明治以降、日本が参加した三番目の一般的国際会議で、日露戦争の勝利後に開催されたため、日本には列強と並ぶ重要な地位が与えられました。会議の主要な決定に関与できる初のアジア国家として参加した経験が、その後の日本外交にいかなる影響をもたらしたのか、それを明らかにしたいと考えています。

現代では、多くの国が一堂に会する国際会議の重要性はさらに増しています。2023年、日本はG7サミット議長国として、多発する国際問題に対する積極的な外交手腕が求められました。G7唯一の非欧米国として期待される一方、ジェンダーギャップの指標では「グローバル基準」に達していないとの批判も受けています。欧米中心の国際会議に関与しようとした約100年前の国際会議の経験を通じて、日本が国際法規範の形成に与えた影響とその限界を見極めること は、国際秩序と日本の関わりを考える上でも大事な示唆を与えてくれると思います。
※掲載内容は全て取材当時(2024年4月)の情報です。