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人間環境学部 佐々木緑先生

干ばつのオーストラリア、稲作最前線

人間環境学部教授 佐々木 緑(ささき みどり)先生

筑波大学大学院 生命環境科学研究科 地球環境科学専攻博士後期課程修了
博士(理学)
専門分野:農業地理学、環境地理学
主要研究テーマ:農業・農村地域における持続的可能性

 私の専門分野は、環境地理学、農業地理学で、持続可能な農業や食料供給のあり方の模索を大テーマに掲げて研究をしています。現在は特にオーストラリアにおける大規模農業が、自然環境や経済、政策によって受ける影響やそれが抱える課題を研究しています。
オーストラリアの農業といえば、日本に多く輸入されているオージービーフや小麦を想像する人が多いと思います。農家1戸あたりの耕地面積が日本の1000倍以上という広大な土地を生かして行われる農業は、国土が狭く農地が限られている日本の農業基盤とは大きく異なります。オーストラリアの農家は複数の農畜産物を栽培・飼育する複合的な農場経営を行っています。また、日本以上に機械化が進んでおり、例えば農薬散布にも飛行機を導入し、1人あたりの生産性も高く、非常に効率的な農業が営まれています。

オーストラリアの稲作地帯

私がオーストラリアの稲作に着目したのは、日本が米食文化のないオーストラリアから米を輸入していることに興味を抱いたからでした。気候条件が日本とは全く異なるオーストラリアで、なぜ稲作が行われているのか、それは日本と同じ方法で行われているのか、どのように現地では受け止められているのかなどが、調査の取っ掛かりとなりました。
オーストラリアでは米は輸出用作物として、南東部の一帯で集中的に栽培されています。農家は広大な農場で複数の農畜産物を栽培していますが、米はその一部として栽培されています。

農地に点在する水使用量を計測する機器

 稲作には豊富な水が欠かせませんが、降水量の少ないオーストラリアでの稲作は灌漑によって可能になっています。生産地近くの山の雪解け水が注ぐ川から人工的に水を引いており、毎年、降雨(雪)量をもとに農業で使用可能な水量が決定されます。農場で使用する水が割り当てされた量より少ない場合は、他の農家から水を買います。オーストラリアでは、2000年代に入ってから頻繁に激しい干ばつに見舞われており、水の価格が高騰しています。そのため農家は、渇水の年は米より面積当たりの水使用量が少なく市場価値の高い綿花など他の作物を栽培したり、割り当てられた水を売買したりして、最終的な収益をあげることを重視しています。渇水の年は米を栽培する農家がほぼいないこともあります。

コメの代わりに増えている綿花栽培

 近年、世界人口は80億人を突破し、ますます食需要が高まっています。また、多くの食料を他国に依存する日本は、当然ながらオーストラリアにも依存しています。先進国における大規模農業は、農薬等の多投入や連作による土壌劣化など環境負荷が課題となることがありますが、自然環境との関わりのなかで、環境負荷を減らし、安定的に農産物を栽培していくことも可能です。実際、オーストラリアでは地力を維持するために、稲作は3~5年の輪作体系に組み込まれています。これは、例えば自分の経営耕地を3年で輪作する場合、1年目の夏に稲作、冬に小麦、2~3年目は家畜を放牧して土壌養分のバランスを維持します。こういう対策を行うことで、大規模農業でも土壌への負荷を減らすことが可能になります。本研究は、私たちが安定的かつ持続的に食料を得ることの実現に寄与するものとなります。
※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。