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国際コミュニティ学部 小須田翔先生

熟議と投票、民主主義の望ましいあり方

国際コミュニティ学部 助教 小須田 翔先生(コスダ ショウ)先生

早稲田大学大学院政治学研究科政治学専攻修士課程終了 修士(政治学)
専門分野:政治学
主要研究テーマ:民主主義・熟議民主主義

私は、政治学の中でも熟議民主主義の規範理論を研究しています。規範理論というのは、今の政治がどうあるのかを考えるだけでなく、これからの政治がどうあるべきなのかをも考える学問です。具体的には、政治や社会を成り立たせている考え(概念)を細かく分析して、その望ましいあり方を構想していきます。
研究の方法は、データを集めたりフィールドワークをしたりするよりも、哲学を使います。政治の概念を哲学的に分析した理論のうち、どの理論がもっとも望ましいのかを検討します。理論は本や論文として発表されるので、そうした本を読みながら比較検討することが研究の中心です。

政治を成り立たせたり動かしたりしている概念には様々なものがあります。正義や平等、権力や自由、環境やフェミニズムなどです。こうした概念の中でも、私がとくに専門的に研究しているのは、民主主義です。民主主義とは、私たちのことは私たちが決めるべきであるという規範的な概念です。民主主義と聞いて多くの人が思い浮かべるのは投票と多数決です。しかし、投票と多数決で決めるやり方は、望ましい決め方でしょうか。
投票と多数決で決めると、いくつかの不都合が生じます。例えば、選挙では政治家の名前を書いて投票していますが、投票に行く人は政治家が何をしているのかについて十分に知った上で投票しているとは限りません。もちろん詳しい人もいますが、イメージやテレビに出ているからという理由だけで投票している人もいます。他にも、投票で多数を取った側は少数の側の意見を無視しがちです。
こうした問題をもつ民主主義のあり方に対して、熟議民主主義というあり方が構想されています。熟議民主主義とは、投票だけでなく話し合いを重視する民主主義のあり方です。熟議民主主義の「規範理論」は、民主主義において話し合いを重視することが望ましいといえる根拠、すなわち熟議民主主義の規範的な根拠を探究します。
熟議民主主義は、人びとが話し合いをする中で、なぜその政策や法律が望ましいと言えるのかについての理由を交換します 。熟議において人々は、自分の意見や判断を理由付けして、他者と共有する必要があります。そうすると、多数派であっても少数派であっても、自分の判断や意見を他の人々に説明しなければならないだけでなく、他の人々の判断や意見に耳を傾ける必要も出てきます。また、人々の判断や意見は、あらかじめ固まったものではなく、熟議を通じて知識を獲得しながら形成されると理解できます。

もちろん、ちょっと考えてみれば、熟議と投票のどちらにもメリットとデメリットの双方があることに気づきます。話し合いを重視する方法は、一人ひとりの意見を聞くことができ、全員で決めた納得感が高まります。しかし、決めるまでに時間がかかるでしょう。また、最終的な結論が出ないこともあるかもしれません。投票を重視する方法は、すぐに決めることはできますが、不満が残ることが多いです。また、最初からどちらがいいかはっきり決まった意見を持っている人は少ないかもしれません。そこで、両方を組み合わせるのはどうでしょうか。十分な話し合いをしたあとで投票を求める方法です。この方法なら、両方の良さを取り入れることができそうです。今後は、より具体的にはどのような制度にすれば両方の良さを取り入れられるのか、さらなる検討を進めていきます。
※掲載内容は全て取材当時(2024年4月)の情報です。