人間環境学部 川村邦男教授および緒方知徳教授による研究
本研究のポイント
- バイオマス廃棄物処理などで得られる5’-ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)は非常に有用な化成品として、その製造法の実用化研究が約30年前から世界各地で行われてきた。しかし、いまも実用化に至っていない。本研究ではHMF回収法の確立がHMF製造プロセス実用化のカギであるとして研究を進め、安全・環境配慮型の回収技術確立に成功した。
- 本研究で確立した技術を用いると、市販品を上回る高純度HMFを回収できる。
- 本技術では古典的な材料であるイオン交換樹脂と活性炭を主要技術として用いる。これらは、古くからまた現在も食品製造などを含む様々な分野で広く用いられている。またどちらの材料も再生可能であり、安全で環境負荷が小さいことは広く実証済みである。
- 昨今では、最先端の材料・方法を使って技術的課題を克服しようとする研究アプローチが多いが、新しい材料・方法の安全性・環境影響は未知である。本研究は、古典的技術が環境配慮型技術の構築に適することを示す事例であり、環境技術開発のあり方に一石を投じるものになると期待している。
研究内容
木材、木綿繊維製品、食品廃棄物はセルロースなどの糖類を含むバイオマスの消費量・廃棄量は莫大である。例えば木綿を含む繊維製品は世界で年間に約2500万トン製造され、多くは廃棄される。これらの廃棄物削減とともに有用化成品を製造するアップサイクルが世界各地で研究されてきた。最も有望な有用化成品であるHMFは、医薬品やポリエステルなどの原料となり得る。例えば木綿は、水分を除けばほぼセルロースであるが、この種の糖類を含む材料や廃棄物からHMFを製造する様々な化学プロセスが1990年頃から世界各地で研究された。また、糖類を含むバイオマス廃棄量は莫大であるため、石油化学プロセスを補完・代替する新しい化学合成プラットホームを構築できるとさえ期待されている。しかし安全で環境配慮型の、①HMF製造プロセス、②高純度HMF回収プロセスは、現在も確立されていないため、実用化に至っていない。例えばこれまでに報告されたHMF製造プロセスは、400℃におよぶ超高温での処理や有機溶剤を必要とするので、実用化は困難であり環境配慮型技術とは言い難い。
そこで川村教授らのグループでは2020年に、①の課題に対してクエン酸を1%含む熱水(225℃)で含セルロース廃棄物からHMFを製造する実験室レベルのパイロットプラントを確立した(Bioresource Technology Reports, 11, 2020, 100476および100478)。この方法は従来法より100℃以上低温の225℃以下で稼働でき、有害な有機溶媒などを全く必要としない。さらに、このHMFを含む混合物からのHMF回収は、比較的容易であることが予見された。この熱水処理で生成するHMFを含む溶液には、熱水処理の際に加えたクエン酸と主な副生成物であるグルコース、および茶褐色の不純物が含まれる。したがって、これらの比較的シンプルな混合物からHMFを回収できれば、HMF精製法を確立できる。とくに本技術の要として、広く使われ安全性が確認されているイオン交換樹脂と活性炭に着目し、安全で環境負荷の小さい高純度HMFの回収法の開発を行った。
本研究では、15種類のイオン交換樹脂と活性炭を含む10種類の担体をスクリーニングし、諸条件を最適化した。本研究で確立した方法では、第1に茶褐色の沈殿物をろ過によって取り除く。ろ液には、HMF、グルコースと水溶性の茶褐色成分(BBPs)が含まれる。第2に、ろ液をイオン交換樹脂で処理するとBBPsを選択的に除去する。第3に、イオン交換樹脂で処理した溶液に活性炭を加え、活性炭にHMFを選択的に吸着させ、グルコースと分ける。第4に、活性炭に選択的に吸着したHMFをエタノールで回収する。第5に、エタノールをエバポレーターで蒸発させて高純度HMFを回収する。以上のプロセスで、市販品に匹敵あるいは上回る高純度のHMFを回収できることを確かめた。本法は、木材や食品などの廃棄量が大きくセルロースあるいは糖類を含む材料や廃棄物の処理にも応用できる。また熱水処理によるHMF製造から本法での回収プロセスまでのフローシステムを組めば、全自動あるいは半自動のHMF製造・回収法を構築できると期待される。
本研究を進めるにあたり、初期段階では2013年度から2014年度のHMF製造に関する研究についてNPO法人広島循環型社会推進機構の支援を受け、また2018年度には公益財団法人JFE21世紀財団の支援を受けてHMFの回収に関する研究を進めました。ここに感謝いたします。
そこで川村教授らのグループでは2020年に、①の課題に対してクエン酸を1%含む熱水(225℃)で含セルロース廃棄物からHMFを製造する実験室レベルのパイロットプラントを確立した(Bioresource Technology Reports, 11, 2020, 100476および100478)。この方法は従来法より100℃以上低温の225℃以下で稼働でき、有害な有機溶媒などを全く必要としない。さらに、このHMFを含む混合物からのHMF回収は、比較的容易であることが予見された。この熱水処理で生成するHMFを含む溶液には、熱水処理の際に加えたクエン酸と主な副生成物であるグルコース、および茶褐色の不純物が含まれる。したがって、これらの比較的シンプルな混合物からHMFを回収できれば、HMF精製法を確立できる。とくに本技術の要として、広く使われ安全性が確認されているイオン交換樹脂と活性炭に着目し、安全で環境負荷の小さい高純度HMFの回収法の開発を行った。
本研究では、15種類のイオン交換樹脂と活性炭を含む10種類の担体をスクリーニングし、諸条件を最適化した。本研究で確立した方法では、第1に茶褐色の沈殿物をろ過によって取り除く。ろ液には、HMF、グルコースと水溶性の茶褐色成分(BBPs)が含まれる。第2に、ろ液をイオン交換樹脂で処理するとBBPsを選択的に除去する。第3に、イオン交換樹脂で処理した溶液に活性炭を加え、活性炭にHMFを選択的に吸着させ、グルコースと分ける。第4に、活性炭に選択的に吸着したHMFをエタノールで回収する。第5に、エタノールをエバポレーターで蒸発させて高純度HMFを回収する。以上のプロセスで、市販品に匹敵あるいは上回る高純度のHMFを回収できることを確かめた。本法は、木材や食品などの廃棄量が大きくセルロースあるいは糖類を含む材料や廃棄物の処理にも応用できる。また熱水処理によるHMF製造から本法での回収プロセスまでのフローシステムを組めば、全自動あるいは半自動のHMF製造・回収法を構築できると期待される。
本研究を進めるにあたり、初期段階では2013年度から2014年度のHMF製造に関する研究についてNPO法人広島循環型社会推進機構の支援を受け、また2018年度には公益財団法人JFE21世紀財団の支援を受けてHMFの回収に関する研究を進めました。ここに感謝いたします。
論文情報
Classical-simple-chemical system for 5’-hydroxymethylfurfural recovery formed during the hydrothermal treatment of saccharide materials
Journal of Environmental Chemical Engineering 13 (2025) 116699. (Elsevier, IF=7.4),
Kunio Kawamura,* Yoshimi Maruoka, Tomonori Ogata, Narin Boontanon
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jece.2025.116699
川村教授担当部分:研究の立案と遂行、論文作成、データ解析、研究資金の獲得
緒方教授担当部分:研究の立案、研究資金の獲得
Journal of Environmental Chemical Engineering 13 (2025) 116699. (Elsevier, IF=7.4),
Kunio Kawamura,* Yoshimi Maruoka, Tomonori Ogata, Narin Boontanon
DOI: https://doi.org/10.1016/j.jece.2025.116699
川村教授担当部分:研究の立案と遂行、論文作成、データ解析、研究資金の獲得
緒方教授担当部分:研究の立案、研究資金の獲得
論文へのリンク
研究助成
- 公益財団法人 JFE21世紀財団 2018年度技術研究助成
- NPO法人広島循環型社会推進機構.平成25年度広島県循環型社会形成推進機能強化事業補助金、および平成26年度広島県循環型社会形成推進機能強化事業補助金
用語解説
セルロース:植物の細胞壁や繊維成分に多く含まれる、β-グルコースが直鎖状につながった多糖類である。木材、木綿、紙はセルロースを多く含む材料であり、紙や木綿は水分を除くとほぼ純粋なセルロースである。身近な材料としてだけでなく、物質の分離など様々な化学工業的用途にも広く使われる。
クエン酸:身近では柑橘類などの酸味として含まれる有機酸であり、水に溶かすと酸性を示す。また、ヒトを含む酸素呼吸をする生物では生体分子の好気的代謝過程でクエン酸回路を構成する物質である。清涼飲料水などの食品添加物や日用品などとして広く用いられる安全な材料である。
イオン交換樹脂:主に合成樹脂を骨格とし、スルホ基やアミノ基などのイオン交換サイトを持つ樹脂の総称である。スルホ基がある場合には陽イオンを交換する陽イオン交換樹脂として働き、アミノ基の場合には陰イオン交換樹脂として働く。例えば、あらかじめスルホ基にナトリウムイオンを保持させておき、マグネシウムなどの陽イオンを接触させると、マグネシウムイオン(Mg2+)が保持され、代わりにNa+イオンが放出される。糖蜜の脱色、海水からの真水の製造などの大規模化学プロセスでも用いられる材料である。
活性炭:炭素を含む材料を加熱し炭化した後に、化学的処理などを施すと、非常に大きな表面積を持つ炭素材料となる。重量あたりの面積が大きく様々な物質を吸着するため、糖蜜の脱色など、不純物除去、脱色、脱臭、浄化に広く用いられる。例えば、多くの家庭用浄水器にも活性炭が使われている。
クエン酸:身近では柑橘類などの酸味として含まれる有機酸であり、水に溶かすと酸性を示す。また、ヒトを含む酸素呼吸をする生物では生体分子の好気的代謝過程でクエン酸回路を構成する物質である。清涼飲料水などの食品添加物や日用品などとして広く用いられる安全な材料である。
イオン交換樹脂:主に合成樹脂を骨格とし、スルホ基やアミノ基などのイオン交換サイトを持つ樹脂の総称である。スルホ基がある場合には陽イオンを交換する陽イオン交換樹脂として働き、アミノ基の場合には陰イオン交換樹脂として働く。例えば、あらかじめスルホ基にナトリウムイオンを保持させておき、マグネシウムなどの陽イオンを接触させると、マグネシウムイオン(Mg2+)が保持され、代わりにNa+イオンが放出される。糖蜜の脱色、海水からの真水の製造などの大規模化学プロセスでも用いられる材料である。
活性炭:炭素を含む材料を加熱し炭化した後に、化学的処理などを施すと、非常に大きな表面積を持つ炭素材料となる。重量あたりの面積が大きく様々な物質を吸着するため、糖蜜の脱色など、不純物除去、脱色、脱臭、浄化に広く用いられる。例えば、多くの家庭用浄水器にも活性炭が使われている。

参考図1. 多糖類からHMF生成の工程(川村,人間環境学研究,20, 15-30, 2022より)

参考図2. 本研究で開発したプロセスとHMFの化学構造