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体長1.6ミリの寄生巻貝の新種を発見!オフィユーリマ属として北太平洋で初、全世界で3種目 人間環境学部 岡西政典助教 研究成果発表

人間環境学部 岡西政典助教 研究成果発表

広島修道大学の岡西政典助教、目黒寄生虫博物館の髙野剛史研究員、並びに東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の幸塚久典技術職員からなる研究グループが、北太平洋で初めての発見となるOphieulima(オフィユーリマ)属の新種を発見し、Ophieulima yoshiharai(オフィユーリマ・ヨシハライ)と命名しました。
研究グループの幸塚技術職員(棘皮動物ウミシダ類の専門家)は2010年に神奈川県相模湾の水深256-343 mにて底曳き網調査を行い、海洋生物の採集を行いました(図1)。その採集物に含まれていたクモヒトデ標本を岡西助教(棘皮動物クモヒトデ類の専門家)が観察したところ、これがOphiactis dyscrita(オフィアクチス・ディスクリータ)であり、その体表面に殻長1.6 mmの微小な巻貝が寄生していることを発見しました(図2)。この標本を髙野研究員(軟体動物巻貝類の専門家)に送ったところ、これが希少な新種の貝類であることが判明しました。
オフィユーリマ属にはこれまで、化石種を除くと北大西洋海域、地中海、ニュージーランドから発見された2種しか報告がなされておらず、今回の新種は世界で3種目のオフィユーリマ属貝類となります。また、本属の発見自体も、北太平洋で初めての希少なものです。
本研究成果は、1)異なる生物の専門家のチームが協力して研究を進めたこと、2)クモヒトデの体の上という微小な環境にも焦点をあてて研究を行ったことの賜物といえます。
本研究成果は2024年3月5日にイギリスのケンブリッジ大学出版の発行する国際誌『Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom』で公開されました。

研究のポイント

  • 神奈川県相模湾の水深256-343 mより、北太平洋海域から初めての発見となるOphieulima(オフィユーリマ)属の巻貝の新種を報告した。
  • 本新種は、オフィユーリマ属としても全世界で3種目の希少な発見となる。
  • 多様な専門家チームの共同研究が、殻の長さが1.6 mmと微小な深海生物の新種発見につながった。

発表論文タイトル

 First occurrence of ophiuroid-parasitic genus Ophieulima (Mollusca: Gastropoda: Eulimidae) in the North Pacific Ocean

著者

 Tsuyoshi Takano, Hisanori Kohtsuka, Masanori Okanishi

雑誌

Journal of the Marine Biological Association of the United Kingdom 

研究助成

1)科学研究費助成事業
 研究課題名 : 「寄生生物の移動能力は多様化パターンに影響するか?:ハナゴウナ科腹足類による検証」
 研究種目  : 若手研究
 研究課題番号: 23K14257

研究の背景と経緯

Eulimidae(軟体動物門腹足綱のハナゴウナ科)の巻き貝は、ヒトデやウニ、ナマコを含む「棘皮動物門」(注1)に寄生し、世界で約1000種が知られています。そのうち、少なくとも14属がクモヒトデ類(注2)に寄生することが知られており、中でもオフィユーリマ属は、Ophiactis(チビクモヒトデ属)のうち深海性の種に寄生する希少なグループです。 
オフィユーリマ属はこれまで世界でOphieulima minima(オフィユーリマ・ミニマ)とOphieulima fuscoapicata(オフィユーリマ・フスコアピカータ)の2種の現生種しか知られておらず、その生息水深は400-1225 mに限定されていました。その理由には、本属が深海性で、標本の収集が困難であることと、宿主であるチビクモヒトデ属自体が小さく、顕微鏡を用いなければ発見が困難であったことが挙げられます。このような種が海洋生態系に占める割合は小さくないと考えられ、その中に新種を発見していくことは、海洋生態系、ひいては海洋の環境変動を考える上で重要です。

研究成果

 広島修道大学人間環境学部の岡西政典助教、東京大学大学院理学系研究科附属臨海実験所の幸塚久典技術職員からなる研究グループは、2010年に相模湾沖での底曳網調査を行いました(図1)。その結果、水深256-353 mより、体長約2 cmのクモヒトデを採集し、これがオフィアクチス・ディスクリータであることを認めました(図2)。標本として得た6個体を観察した結果、そのうちの1個体の体表に、体長(殻の長さ)が1.6 mm ほどの巻き貝1個体が寄生している事を発見しました。
この標本を目黒寄生虫博物館の髙野剛史研究員が詳細に観察したところ、これが北太平洋海域で初めての発見となるオフィユーリマ属の新種であること、さらに本属として世界で3種目の発見であることが明らかとなりました。本種は、1)殻の長さが幅の2.1倍であること、2)殻の開口部(殻口)が小さいこと、3)原殻(殻の先端部に残る幼生の時の殻)が3.5 巻きであることという特徴から、他種と区別できます。また本新種の学名Ophieulima yoshiharaiは、本研究をはじめとする分類学的研究を長年応援くださっている飲食店オーナーの吉原俊幸氏にちなんでいます。

今後の展開

ハナゴウナ科は現在までに約1000種が記録されていますが、まだ名前のない、いわゆる新種が沢山いることもわかっています。特にオフィユーリマ属はこれまで2種しか知られていませんでしたが、その理由には、深海性であることや、宿主のクモヒトデ類が体長数cm以下のチビクモヒトデ属であるため、研究の材料となる標本が得られなかったことが挙げられます。しかし、現在のオフィユーリマ属の分布域は大西洋からニュージーランドと幅広く、さらに本研究によって北太平洋にまで拡大することを考えると、実際には本属が世界中の海底に分布している可能性は高いと考えられます。本研究では、棘皮動物学者と軟体動物学者の協力と、顕微鏡サイズの小さな種もターゲットにした詳細な観察が希少な新種の発見に繋がりました。今後、多くの専門家の協力や、微小な生物にも焦点を当てた観察により、このような知られざる新種が発見されていくことで、その多様性の全貌が明らかになると期待できます。

図1:東京大学付属臨海実験所の臨海丸による底曳網調査の様子
1. 底曳網投入前;2. 底曳網揚収後。多様な生物を含む海底の泥が採れている。

図2:オフィユーリマ・ヨシハライの標本画像
1. オフィアクチス・ディスクリータに寄生する様子;2. 全体像;3. 殻上部の拡大画像。矢印は原殻とそれ以外の部分の境界を示す。
スケールバー:(2) 0.5 mm; (3) 0.2 mm.

用語解説

注1:棘皮動物門
ウニ、ヒトデ、ナマコ、クモヒトデ、ウミユリなどの動物を含むグループ。ほぼ全て海産で、五放射相称(星形)の体や、炭酸カルシウム性の骨片を持つという共通点を持つ。
注2:クモヒトデ類
ヒトデやウニと同じ「棘皮動物門」に所属するグループで、細長い腕の骨格の構造がヒトデと異なることから区別される。