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半世紀ぶりに発見!珍クモヒトデ 人間環境学部岡西政典助教 研究成果発表

本研究のポイント

  • 和歌山県串本町の水深2-12 mより、55年ぶりにジョウヘキクモヒトデの仲間を発見した
  • 本種の形態学的な研究と水中での観察を行った結果、日本からは記録のなかった種であり、砂の中に潜るという生態が明らかになった
  • 本研究により、スキューバダイビングで潜水可能な水深や海底の砂の中に未発見の種が生息しており、こうした方法、調査環境が海洋保全を考える上で注目すべきであることが示された

概要

研究内容

広島修道大学の岡西政典 助教、黒潮生物研究所の平林勲 研究員補、「ウニ ヒトデ博士ちゃん」として知られる中学生 談一之介 氏からなる研究グループが、1968年以降発見記録のなかった「Ophioteichus(オフィオテイカス)」(和名新称:ジョウヘキクモヒトデ属)を発見しました。
和歌山県串本町の水深2-12 mの水深帯において、スキューバ潜水による生物採集を行い、珍しいクモヒトデを発見。これを海外の種と比較したところ、日本では記録のなかった「Ophioteichus multispunum(オフィオテイカス・マルチスピナム)」(和名新称:タシンジョウヘキクモヒトデ)であることが判明しました。また、和歌山県すさみ町と高知県土佐清水市の海岸の砂の中からも本属と思われる種を多数発見しました。
ジョウヘキクモヒトデ属の日本での報告例はこれまで、1968年に和歌山県白浜町の畠島の潮間帯から採集された標本を基に新種として報告された「Ophioteichus utinomii(オフィオテイカス・ウチノミイ)」(ウチノミクモヒトデ)の一例のみでした。タシンジョウヘキクモヒトデは、55年ぶりのジョウヘキクモヒトデ属の日本での発見となりました。
本研究成果は、砂の中という、これまであまり注目されてこなかった環境にも焦点をあててサンプリングを行った活動の賜物といえます。
本研究成果は2023年4月26日に日本動物分類学会国際誌『Species Diversity』で公開されます。

書誌情報

著者

Okanishi, M., Dan. I, Hirabayashi, I. 2023.

発表論文タイトル

The first record of Ophioteichus multispinum (Echinodermata: Ophiuroidea) from Japan, with notes on its ossicle description and ecology.

論文へのリンク

研究の背景と経緯

クモヒトデ類(クモヒトデ綱)とは、ヒトデやウニと同じ「棘皮動物門」(注1)に所属するグループで、世界で約2100種が知られている。ヒトデに比べると概して腕が細長く、その腕を器用にくねらせることで、岩礁、砂、泥、サンゴ礁など、さまざまな海洋環境に生息している(図1)。ヒトデとよく間違われることがあるが、腕の骨格の構造が異なっており、腕の口側に歩帯溝(ほたいこう)と呼ばれる溝があればヒトデ、なければクモヒトデと区別される(図2)。
クモヒトデ類はこれまで日本から約350種が記録されている。その多くは潮間帯などの浅瀬や、調査船でアクセスできる深海(200 m以深)から認められている。一方で、近年のスキューバ潜水での採集によって、水深数十mより、新種や稀種の発見が相次いでいる。また水中カメラの普及によって、このような水深帯の生物の生きざまも明らかにされている。したがって、スキューバ潜水で到達できる水深での調査は、海洋環境を考える上でも非常に重要といえる。
本研究で扱ったジョウヘキクモヒトデ属は、日本では1968年に和歌山県白浜町畠島の潮間帯からOphioteichus utinomii(ウチノミクモヒトデ)が記録されているだけの、珍しい属である。本属は体の中心の盤と呼ばれる部分の周りに、まるで城壁のような強固な板の列を持つ。ウチノミクモヒトデは2022年には和歌山県レッドリストの絶滅危惧種にも指定されているため、本属の国内における生息状況の確認は、海洋保全学的研究の重要事項である。

注1:棘皮動物門
ウニ、ヒトデ、ナマコ、クモヒトデ、ウミユリなどの動物を含むグループ。ほぼ全て海産で、五放射相称(星形)の体や、炭酸カルシウム性の骨片を持つという共通点を持つ。

図1:クモヒトデとヒトデの一般的な体の作り。メナシクモヒトデ(A)とジュズベリヒトデ(B)の背側の様子。矢印は自切した腕の切断部。

図2:メナシクモヒトデ(A)とジュズベリヒトデ(B)の腹側の様子。

研究の成果

図3:タシンジョウヘキクモヒトデの野外で砂から掘り出された様子(A, B)と、背側の様子(C)。

広島修道大学人間環境学部の岡西政典助教、黒潮生物研究所の平林勲研究員補、ならびに「ウニ ヒトデ博士ちゃん」として知られる中学生 談一之介 氏からなる研究グループは、和歌山県串本町でのスキューバ潜水、並びに和歌山県すさみ町と高知県土佐清水市における潮間帯の砂泥底での海産底生生物の収集を行った(図2)。その結果、潮間帯から水深12 mより、体長約5 cmのクモヒトデが得られ、これがジョウヘキクモヒトデ属であることを認めた(図3)。標本として得た3個体について、その形態を詳細に観察した結果、本種はウチノミクモヒトデとは形態的に異なるOphioteichus multispinumであると判断し、「タシンジョウヘキクモヒトデ」の和名を提唱した。
本種の生息状況を現地で観察したところ、砂に潜って生息していることが明らかとなった。そして砂から掘り出した本種を観察したところ非常に動きが緩慢であることも判明した。砂に潜るクモヒトデ自体は珍しくないが、クモヒトデ類は概して動きが素早く、砂から掘り出されると即座に砂の中に戻っていく種が多い。このことを考えると本種はこれらの既知のクモヒトデとは異なる生態を有している可能性がある。今後、飼育を行い、詳細に生態を調査することで、クモヒトデ類における新たな生態の解明が期待される。

図4:和歌山県すさみ町(A-E)と高知県土佐清水市(F)の潮間帯で砂の中から得られたジョウヘキクモヒトデ属(種は不明)。

また本研究では、すさみ町と土佐清水市の潮間帯での砂の掘り返し調査により、ジョウヘキクモヒトデ属を多数記録した。クモヒトデ類においてはこれまで転石下での採集などが主であったが、このような方法によって新たな生態を持つクモヒトデ類の採集が可能であることが明らかとなった(図4)。 

今後の展開

日本におけるクモヒトデ研究は1917年に本格的に始まり、現在までで約350種が記録されている。近年でも2021年に新種が発見されるなど、その種の多様性研究には解明の余地が大きいことが示されている。そのような中で、スキューバ潜水でアクセスできる水深帯や砂の中からの採集という方法をとることによって、本邦からさらなる新記録種や稀種が発見される可能性が高い。クモヒトデ類は棘皮動物の中でも種数・個体数が多く、近年では岡西助教の研究チームによる環境DNA解析手法の開発や化石記録の報告が相次いでいる。クモヒトデ類は、新たな環境指標生物となる可能性があり、本研究はその基礎情報を提示するものである。

研究助成

研究課題名: 「博物館標本DNAに基づく海産無脊椎動物ニシキクモヒトデの保全学的研究」
研究種目: 科研費基盤C
研究課題番号: 21K05632