—環境汚染評価やジビエ利用の安全性評価に新たな視点—
ポイント
- 本学人間環境学部の奥田 圭教授、本学人間環境学部(2025年度卒業)の野村 一翔さん、および他大学の研究者らによる共同研究チームの成果が、国際学術誌に掲載されました。
- 広島県・愛媛県で得られた野生イノシシ13個体(胎子8個体を含む)について、筋肉・心臓・肝臓・腎臓・大腿骨に含まれる銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)を分析しました。
- Cu、Cd、Pbでは胎子と非胎子(亜成獣・成獣)で蓄積部位に違いがみられました。一方、Znでは大きな違いはみられませんでした。
- 野生動物を用いた環境汚染評価や、ジビエ利用に関わる食品安全上の評価において、成長段階を考慮する必要性が示唆されました。
本研究成果は、国際学術誌「Archives of Environmental Contamination and Toxicology」に掲載されました。
論文タイトル:Developmental Differences in the Organ-Specific Distribution of Cu, Zn, Cd, and Pb in Free-Ranging Wild Boar (Sus scrofa)
著者名 :Kei Okuda, Kazuto Nomura, Hiroko Ishiniwa, and Akihisa Hata
URL :https://doi.org/10.1007/s00244-026-01210-8
概要
野生イノシシは、土壌を掘り返して採食する雑食性の動物であり、環境中の重金属汚染を評価するための指標種として注目されています。また、各地でジビエとして利用されることから、体内に蓄積する金属元素の把握は、野生動物の毒性評価だけでなく、食品安全やOne Healthの観点からも重要です。
本研究では、広島県・愛媛県で得られた野生イノシシ13個体を対象に、筋肉、心臓、肝臓、腎臓、大腿骨に含まれるCu、Zn、Cd、PbをICP-MSで分析し、これらの金属元素の体内分布パターンを胎子と非胎子(亜成獣・成獣)で比較しました。その結果、Cuは胎子の肝臓、Cdは非胎子の腎臓、Pbは非胎子の大腿骨に相対的に多く分布する傾向が示されました。一方、Znの分布には、胎子と非胎子の間で大きな違いはみられませんでした。
本研究では、広島県・愛媛県で得られた野生イノシシ13個体を対象に、筋肉、心臓、肝臓、腎臓、大腿骨に含まれるCu、Zn、Cd、PbをICP-MSで分析し、これらの金属元素の体内分布パターンを胎子と非胎子(亜成獣・成獣)で比較しました。その結果、Cuは胎子の肝臓、Cdは非胎子の腎臓、Pbは非胎子の大腿骨に相対的に多く分布する傾向が示されました。一方、Znの分布には、胎子と非胎子の間で大きな違いはみられませんでした。
図.野生イノシシにおける成長段階ごとの重金属分布部位の概要。Cu、Cd、Pbでは成長段階によって分布部位が異なる一方、Znでは胎子と非胎子で大きな違いはみられませんでした。
研究体制
本研究は、広島修道大学人間環境学部の野村 一翔さん(2025年度卒業)、奥田 圭教授、武庫川女子大学環境共生学部の石庭 寛子准教授、岡山理科大学の畑 明寿教授らの共同研究チームによって実施されました。野村さんは本研究の基盤となる試料整理・前処理等に卒業研究として取り組みました。
内容
研究チームは、2024年・2025年に広島県および愛媛県で得られた野生イノシシを対象に体内における重金属類の分布を調査しました。解析対象には、妊娠雌2個体由来の胎子8個体、これらの妊娠雌2個体、亜成獣2個体、成獣雄1個体が含まれます。
各個体から筋肉、心臓、肝臓、腎臓、大腿骨を採取し、ICP-MSによりCu、Zn、Cd、Pbの濃度を測定しました。さらに、単に濃度の高低を比較するだけでなく、個体内で各元素がどの臓器にどの程度分布しているのかを示す「相対的な臓器別分布」に着目して解析しました。
解析の結果、Cu、Cd、Pbでは胎子と非胎子の間で臓器別分布に違いがみられました。Cuは胎子の肝臓に相対的に多く分布し、胎盤を介した銅の移行や胎子期の肝臓での貯蔵を反映している可能性が示唆されました。Cdは非胎子の腎臓に相対的に多く分布し、出生後の環境曝露や加齢に伴う蓄積を反映している可能性が示唆されました。Pbは非胎子の大腿骨への寄与が相対的に大きく、骨組織に蓄積しやすい鉛の性質と整合的でした。一方、Znは胎子と非胎子で明瞭な分布差がみられず、成長段階を通じて比較的安定した調節を受けている可能性が示唆されました。
ただし、本研究で用いた胎子は2腹由来であること、解析個体数が限られていることから、得られた結果は探索的な知見として位置づけられます。今後、より多くの個体や地域を対象とした検証が必要です。
各個体から筋肉、心臓、肝臓、腎臓、大腿骨を採取し、ICP-MSによりCu、Zn、Cd、Pbの濃度を測定しました。さらに、単に濃度の高低を比較するだけでなく、個体内で各元素がどの臓器にどの程度分布しているのかを示す「相対的な臓器別分布」に着目して解析しました。
解析の結果、Cu、Cd、Pbでは胎子と非胎子の間で臓器別分布に違いがみられました。Cuは胎子の肝臓に相対的に多く分布し、胎盤を介した銅の移行や胎子期の肝臓での貯蔵を反映している可能性が示唆されました。Cdは非胎子の腎臓に相対的に多く分布し、出生後の環境曝露や加齢に伴う蓄積を反映している可能性が示唆されました。Pbは非胎子の大腿骨への寄与が相対的に大きく、骨組織に蓄積しやすい鉛の性質と整合的でした。一方、Znは胎子と非胎子で明瞭な分布差がみられず、成長段階を通じて比較的安定した調節を受けている可能性が示唆されました。
ただし、本研究で用いた胎子は2腹由来であること、解析個体数が限られていることから、得られた結果は探索的な知見として位置づけられます。今後、より多くの個体や地域を対象とした検証が必要です。
今後の展望
本研究は、野生動物の体内における重金属の分布を評価する際に、単一の組織における濃度だけでなく、成長段階や体内での分布パターンを考慮することの重要性を示しました。今後は、より多くの個体や母子を対象とするとともに、土壌や餌資源などの環境試料もあわせて解析することで、環境中の重金属への曝露と、それらが体内でどのように分布・蓄積するのかとの関係を、より詳細に明らかにしていく予定です。また、ジビエとして利用される野生動物の肝臓や腎臓などの内臓における金属蓄積を明らかにすることは、食品安全やOne Healthの観点からも重要な基礎情報となります。
用語解説
重金属:比重の大きい金属元素の総称です。本研究では、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)を対象としました。CuとZnは生体に必要な必須微量元素ですが、過剰に蓄積すると生理機能に影響を及ぼす可能性があります。一方、CdとPbは生体に必須ではない元素であり、体内に蓄積すると健康への影響が懸念されます。
ICP-MS:誘導結合プラズマ質量分析法の略称で、試料中に含まれる微量元素を高感度に測定する分析法です。
One Health:「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」をひとつに繋がったものと捉え、一体的に守っていこうとする考え方です。野生動物の汚染物質蓄積の把握は、生態系保全だけでなく、人の健康や食品安全にも関わります。
ICP-MS:誘導結合プラズマ質量分析法の略称で、試料中に含まれる微量元素を高感度に測定する分析法です。
One Health:「人の健康」「動物の健康」「環境の健全性」をひとつに繋がったものと捉え、一体的に守っていこうとする考え方です。野生動物の汚染物質蓄積の把握は、生態系保全だけでなく、人の健康や食品安全にも関わります。
論文情報
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| タイトル | Developmental Differences in the Organ-Specific Distribution of Cu, Zn, Cd, and Pb in Free-Ranging Wild Boar (Sus scrofa) |
| 著者 | Kei Okuda, Kazuto Nomura, Hiroko Ishiniwa, and Akihisa Hata |
| 掲載誌 | Archives of Environmental Contamination and Toxicology |
| DOI | https://doi.org/10.1007/s00244-026-01210-8 |