本研究のポイント
- 伊勢湾(水深17 m・34 m)で、海底直上水と表層水の環境DNA(eDNA)を採取し、クモヒトデ類を対象にメタバーコーディング解析を実施。
- eDNA解析ではクモヒトデ5種を検出し、同地点の直接採集(ドレッジ)では2種にとどまった。
- 表層水からも海底性クモヒトデのDNAが検出され、海底に近づかずに底生生物相を推定できる可能性を示した(ただし鉛直輸送の程度は今後の検証が必要)。
A…調査船勢水丸(三重大学)
B…ニスキン採水器
C…ニスキン採水器を用いた自然海水サンプリング作業の様子
D…生物ドレッジ(1 m間口の底引き網)で底引きして底生生物を採集する様子
概要
広島修道大学の岡西 政典 教授(人間環境学部)と京都大学の研究グループは、伊勢湾において、水深17 m(砂底)および34 m(泥底)で海水を採取し、クモヒトデ類(棘皮動物)の環境DNAメタバーコーディング解析(eDNA解析)を行いました。その結果、eDNA解析により5種のクモヒトデが検出され、直接採集(ドレッジ)で確認できた2種を上回りました。さらに、海底直上水だけでなく表層水からも海底性クモヒトデのDNAが検出され、数十メートル水深の底生生物を表層水の採水で把握できる可能性が示されました。本成果は、沿岸域における底生生物多様性のモニタリングをより機動的・広域に行う手法の基盤となることが期待されます。
研究の背景
海洋は地球表面の約70%を占め、海の環境変化を把握することは地球環境の理解に直結します。環境DNA(eDNA)メタバーコーディングは、水中に漂う生物由来DNAを手がかりに生物相を推定する手法として急速に普及してきましたが、国内では魚類に焦点を当てた研究が多く、底生生物(海底に生息する生物)を主対象とした検証は相対的に少ないのが現状です。また、標準的なスキューバで到達可能な「数十メートル水深帯」は浅海と深海をつなぐ重要な領域である一方、生物相の情報が十分に蓄積されていませんでした。
2023年5月31日、三重大学の調査船(勢水丸)による航海で、伊勢湾南西部の2地点(St. 2:17 m、St. 3:34 m)にて採水を実施しました。各地点で海底直上水5 Lと表層水5 Lを採取し(計20 L)、クモヒトデ類に特化したプライマー(16S rRNA遺伝子を標的)を用いてメタバーコーディング解析を行いました。同時に、同地点でドレッジによる直接採集も行い、手法間の検出差を比較しました。
2023年5月31日、三重大学の調査船(勢水丸)による航海で、伊勢湾南西部の2地点(St. 2:17 m、St. 3:34 m)にて採水を実施しました。各地点で海底直上水5 Lと表層水5 Lを採取し(計20 L)、クモヒトデ類に特化したプライマー(16S rRNA遺伝子を標的)を用いてメタバーコーディング解析を行いました。同時に、同地点でドレッジによる直接採集も行い、手法間の検出差を比較しました。
主な成果
- eDNAメタバーコーディングにより、直接採集より多い5種のクモヒトデが検出された(直接採集は2種)。
- 表層水のeDNAからも、海底に生息するクモヒトデ類のDNAが検出され、表層採水のみで底生生物の情報を得られる可能性を示した。
- 一方で、eDNAがどの程度鉛直方向に輸送されるか(どれくらい「海底の情報が表層に上がるか」)は海域条件に左右されうるため、今後、追加地点・季節・流況条件での検証が必要である。
今後の展開
底生生物のeDNAモニタリングは、海底採集や潜水調査を補完し、広い海域を継続的に観測するうえで有力な選択肢となります。本研究グループは、水深帯・季節・海況の違いを取り入れた追試を進め、鉛直輸送の影響(検出距離・混合の程度)を定量的に評価するとともに、参照データベースの整備を通じて同定精度の向上を目指します。
論文情報
題目 :Environmental DNA metabarcoding of benthic brittle stars (Echinodermata: Ophiuroidea) from Ise Bay, central Japan, targeting the 16S rRNA genes
著者 :Masanori Okanishi, Luna Yamamori, Hideaki Miyashita
掲載誌:Plankton & Benthos Research
著者 :Masanori Okanishi, Luna Yamamori, Hideaki Miyashita
掲載誌:Plankton & Benthos Research