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2025年度英語英文学科ゼミ指導教員が推薦する卒業研究論文を選出しました

2025年度卒業生が執筆した卒業研究論文の中から、指導教員の推薦に基づいて論文を選出しました。「卒業研究」は英語英文学科の必修科目で、4年間の学びの集大成となります。選ばれたみなさま、おめでとうございます!

石塚ゼミ / 栢 歩花さん / 「文芸翻訳におけるオノマトペの訳出から探る物語の再構築: The story of Miminashi Hōichi の場合」

要旨 本研究では、Lafcadio Hearnの The story of Miminashi Hōichi とその平井呈一訳を対象に、英語から日本語への文芸翻訳における物語の再構築について考察した。日本語と英語の語彙的非対称性に注目し、英語から日本語への訳出にあたっては原文にないオノマトペが頻出する現象に注目し、小説作法における「説明」から「描写」への転換という観点から分析を行った。作品全体の質的分析より、平井訳では原文の動詞等が含む様態が、オノマトペにより感覚的・視覚的な描写へと再構築されていることを明らかにした。さらに『平家物語』の文体を意識した語彙選択を検証し、文芸翻訳における翻訳者が独自の解釈を通じて作品世界を創造的に再構築していることを論じた。
指導教員からのコメント 本論文は、翻訳におけるオノマトペの機能を、単なる語彙の等価的置換ではなく、小説作法上でいう「説明」から「描写」への転換として捉え、作中に現れるオノマトペを網羅的に分析している。緻密なテクスト分析を通じ、盲目の芳一の知覚世界が訳文でいかに具体化されたかに注目し、日本語の「耳なし芳一」成立における翻訳者の創造的役割を記述した。特筆すべきは「間テクスト性」の観点からの分析である。平井訳に見られる特定のオノマトペが『平家物語』の表現を引用している事実を指摘し、翻訳者が歴史的テクストをも取り込んで物語を再構築していることを論じた点は、文芸翻訳研究として高い説得力と独創性を有しており、推薦に値する。

石田ゼミ / 森山 里咲さん / 「WillのVolitional用法における語用論・意味論的分析」

要旨 英語の助動詞 will は、未来時制のマーカーであると同時に、意志(volition)や推論などの多様なモダリティを表す。本論文は、Salkie (2010) による「意志用法は古英語における語義が残存したものである」という主張を検討の基盤として、その妥当性を語用論的・意味論的観点から再評価している。具体的には、will の文法化の歴史を整理した上で、Haegeman (1983) の命題階層モデルを分析の枠組みとして採用し、どのような文脈的条件や動詞の性質が意志的解釈を成立させるのかを記述・分析している。その結果、意志用法は単なる歴史的な残存物ではなく、意味論的な命題構造と語用論的な発話行為の双方が関与することで体系的に導き出される用法であることを明らかにしている。
指導教員からのコメント 本論文は、助動詞 will をめぐる時制とモダリティの複雑な議論に対し、明快な視座から切り込んだ優れた研究である。まず、歴史的な変遷から現代の主要な理論(Salkie, Huddleston & Pullum, Haegeman等)までを的確に整理できている。特に、抽象的な命題階層モデルを用いて具体的な言語データを再分析し、意志性が強まる語用論的条件を導き出したプロセスは、学術的妥当性が極めて高い。自身の分析を通じて Salkie の主張を再評価しようとする批判的思考と、難解な理論を平易な日本語で論理的に説明しようとする誠実な執筆姿勢が随所に表れており、卒業論文として模範となる水準に達している。

阪上ゼミ / 寺本 由希奈さん / 「アメリカ英語とイギリス英語の発音の違いが聴解に与える影響とその学習効果」

要旨 TOEIC(R)などの国際的な英語試験では、複数種の英語への対応が求められている。本研究は、アメリカ英語とイギリス英語の発音の違いが、日本人学習者の聴解に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。日本人大学生6名を対象に、両変種の標準的な発音(General AmericanとReceived Pronunciation)に基づくシャドーイング教材を自作し、1週間の学習を実施した。学習の前後にディクテーション形式のテストを行い、聴解状況を測定した。その結果、テストの平均得点が両種で上昇し、特にイギリス英語でより大きな改善が見られた。誤答分析では、「butter」や「that」などの/t/音の弾き音(flapping)や声門閉塞音(glottal stop)として発音される語に誤答が頻出しており、特定の音声特徴が聴解を阻害する要因であることが明らかになった。
指導教員からのコメント 本論文は、学習者が感じている「英語の発音の違いによる聞き取りの難しさ」を、測定(ディクテーション)と介入(シャドーイングによる学習)を組み合わせて実証的に検証した意欲作である。特に、誤答分析により聞き取りの障壁となる音声特徴を具体的に示した点は評価できる。また、調査結果に基づき、複数種の音声の学習機会を確保する必要性を論じ、flappingなどの音声特徴を意識した学習を取り入れるなどの指導法改善を提案している点も評価できる。

佐川ゼミ / 羽藤 英里さん / 「『マクベス』を中心としたシェイクスピアの魅力— 当時のヒット作から現代人の鏡へ —」

要旨 本論文は『マクベス』を中心に、シェイクスピア四大悲劇が四百年以上にわたり読み継がれてきた理由を多角的に検討したものである。歴史的背景、人物造形、倫理観、現代的翻案の分析を通じて、作品の核にある「人間の根源的な弱さ」が時代を超えて共感を呼び続ける点を明らかにした。権力欲や罪悪感、倫理的葛藤といった普遍的テーマは、現代社会の政治・ビジネス・メディア環境にも通じ、作品が常に新たな意味を獲得し続ける要因となっている。また、解釈の幅広さやデジタル・ヒューマニティーズ的手法による再検証の余地についても言及がなされている。シェイクスピア悲劇のさらなる解釈の次世代的可能性も確認された。 
指導教員からのコメント 本論文は、『マクベス』を中心にシェイクスピア悲劇の普遍性を多面的に捉えた点で、非常に完成度の高い研究である。歴史的背景から現代的翻案までを一貫した視点で整理し、作品が持つ「開かれたテキスト」としての性質を的確に描き出している点が優れている。また、倫理的葛藤や心理描写を現代社会の問題と結びつけた考察は説得力があり、文学研究が社会とつながる可能性を示した点も優れている。さらに、デジタル・ヒューマニティーズへの言及は、今後の研究の発展性を示すもので、学術的視野の広さを感じさせる。綿密なテキストの読み込みと、文学的洞察と構成力を備えた、極めて優秀な卒業論文である。

Barrsゼミ / 上林 美咲さん・佐賀 綾花さん・折出 真祐さん / 「A Linguistic Analysis of Drugstore Signage for International Tourists in Hiroshima, The Linguistic Landscape of Miyajima: The appropriateness of multilingual signs in religious facilities, An Investigation of Multilingual Communication at Hotel Intergate Hiroshima」

要旨 These three research projects focused on analyses of specific contexts within Hiroshima’s linguistic landscape. Kamibayashi san examined the presence and absence of multilingual signage in drugstores in Hiroshima’s city centre, identifying significant differences in language choice and textual presentation among three major drugstore chains. Saga san investigated the linguistic landscape of Miyajima Island, documenting the appropriateness and effectiveness of multilingual signage associated with religious facilities. Oride san explored the extent of multilingual communication present in the linguistic landscape of a popular international hotel located in downtown Hiroshima.
指導教員からのコメント These projects shed light on several challenges Japan faces as it continues to develop as a major global tourist destination. One such challenge concerns how facilities across the country accommodate foreign visitors through the visual presentation of multilingual signage. The production of this signage requires careful consideration of which languages are displayed, the amount and clarity of information provided, and responsibility for proofreading and ongoing maintenance. These issues became evident through the investigations of drugstores, religious facilities, and hotels in Hiroshima. While the findings suggest that there is generally a substantial level of multilingual support for foreign visitors, they also highlight specific areas that require further attention and improvement.

塩田ゼミ / 黒川 彩夏さん / 「『赤毛のアン』と食—食が物語に作用する効果」

要旨 本論文は、L. M. モンゴメリ『赤毛のアン』における「食」の描写に焦点を当て、食が物語世界のリアリティを支えるだけでなく、人物関係の形成や主人公アンの成長を促す装置として機能している点を明らかにした。作中の食卓・社交の場・失敗のエピソードを丁寧に抽出し、家庭内の信頼構築や共同体の一員となっていく過程を読み解いた。さらに、料理の再現やレシピ本など現代の受容にも目配りし、作品が「食」を通じて読者文化へ波及してきた側面を論じている。日常描写を主題化し、テキストの細部から作品の魅力を再定位した点に本研究の意義がある。
指導教員からのコメント 本論文は、従来は周縁化されがちな「食」描写を、家族形成・共同体・受容史へと関連づけながら一貫した視点で論じた力作である。作品読解の精度が高く、具体的な場面分析を通して、日常の細部が物語の推進力となることを説得的に示した。学生の問題設定の独自性と粘り強い資料整理を高く評価したい。

戸出ゼミ / 森田 秦哉さん / 「音楽(歌)を中心にした英語リスニング指導の提案」

要旨 歌は英語学習の良質の教材として機能し得る。先行研究でも歌を活用した英語指導の実践が研究されているが、単に「導入としての利用」や「授業の雰囲気づくりとしての利用」にとどまっており、「歌を中心教材として扱う指導」が十分に研究されているとは言い難い。本研究では、英語音声への意識を高めることを通したリスニング技能の向上のために歌を中心教材として指導することを検討した。最終的には、Oasisの “Don’t Look Back in Anger”を教材として用いた5時間分の指導をデザインし、音声的特徴の理解と歌詞の意味をどのように結びつけるかを考察した。
指導教員からのコメント 歌を活用した英語教育に関する先行研究の調査にとどまらず、英語リスニングのプロセス、日本語と英語のリズムの違い、発音能力とリスニング技能の関連性、音楽と言語処理の共通性に関する論文を読み、英語リスニング指導の理論に基づいた指導をデザインしたことが本論文の強みである。さらに、選定した曲の社会的背景と文化的文脈の中で歌詞が表す意味の理解を促し、その意味を表す超分節音素の特徴に注意を向ける指導へと展開させたことは注目に値する。

大澤ゼミ / 下手 香凛さん / 「ポライトネスの観点から見る日英の接客における謝罪行動の比較」

要旨 日本と英語圏では、接客時の謝罪行動や店員と顧客の役割関係が異なる。本論文では、接客という状況下における英語圏と日本の謝罪行動、そこに垣間見える店員と顧客の関係性に関する文化的価値観等を明らかにすることを試みている。日本語話者と英語話者(米・豪・加)を対象に、実際に日本で起きたクレーム事例を基に作成した 4 つのシナリオを提示し、各場面において店員の立場を想定した対応方法の回答を収集し、言語・非言語行動の分析を行った結果、日英間のポライトネスの志向性が異なる傾向が明らかになったが、英語話者は自分に責任が無いと感じる場合であっても謝罪をする傾向を示した点は仮説とは一致しなかった。
指導教員からのコメント  調査はオンラインで実施したが、日本語話者と英語話者の数に不均衡が生じており、仮説を検証するために十分だと言える回答数が集まらなかったこと、また質問紙調査であることから、行動の意図などまでは明らかにできなかったことは、本人も認めているように本論文の限界であると言えるかもしれない。一方でポライトネス理論の枠組みに基づき、オンラインで公開されているクレーム事例を参照した上で質問紙を作成し、データを数値化するだけでなく実際に用いられる表現なども例示している点は評価できる。何より発想のユニークさを評価したい。