2024年度卒業生が執筆した卒業研究論文の中から、指導教員の推薦に基づいて論文を選出しました。「卒業研究」は英語英文学科の必修科目で、4年間の学びの集大成となります。選ばれたみなさま、おめでとうございます!
Barrsゼミ / 氏平 祐貴さん / 「An Analysis of Potential Linguistic Barriers on Multilingual Signage in Hiroshima Gate Park」
要旨 | This research examined the effectiveness of multilingual signage in Hiroshima Gate Park (HGP), based on a survey and analysis of a large sample of signs and signposts. The results revealed that Japanese-only signage is predominant, with incomplete and inconsistent translations into English and other languages, a lack of explanations for historical buildings, and some errors and inconsistencies in pictograms and guide signs. The paper concludes that improving these issues would enhance the convenience of HGP, and help to promote international understanding. |
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指導教員からのコメント | This thesis analysed the current state and challenges of multilingual signage in Hiroshima Gate Park. It involved a very thorough and interesting analysis of the quantity and quality of this signage, and resulted in the identification of various practical and community-based linguistic issues such as incomplete translations and errors in the choice of pictograms. |
大澤ゼミ / 瀬尾 友美奈さん /「語用論的視点から分析する言語景観」
要旨 | 私たちが日常目にしている言語景観を題材として語用論的視点から分析した論文。具体的には広島県内における観光地に設置された看板、広告、注意書きなど日本語・英語で書かれているものを撮影した上でグループ分けし、直接発話行為と間接発話行為に分類している。その結果、日英双方において分析対象となった多くのものが直接発話行為であることが明らかになった。施設利用者に対しては親しみやすく協力をお願いするものが多く、施設の安全や環境保護に関連するものは直接発話行為を用いていることが明らかになった。 |
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指導教員からのコメント | 本人も今後の課題として指摘しているように、短期間で収集したサンプルであるため、代表性を担保しているものとは言えず偏りがあることは否めない。一方で観光地に留まらず、トイレやコインロッカー、飲食店などにおける言語景観も収集しているため、非常に興味深い分析が行われている。多くの場所でデータを収集しているため、場面ごとに発話の機能が異なる(たとえばトイレは説明型が多く神社では依頼型が多い等)ことや、日本語・英語において発話行為の型が同一であることが多い、などの傾向も明らかになっており、観光地としての魅力を高める言語景観にするための重要な示唆を持つ論文である。 |
阪上ゼミ / 鈴藤 香乃さん / 「日本の高校生向け英語教科書と海外ドラマにおける英語表現の比較分析」
要旨 | 本研究は、日本の高校英語教科書と英語ドラマ「Full House」のスクリプトを比較し、会話表現の違いを分析したものである。語彙カバー率やn-gram、品詞分析を用い、教科書が文法的に正確でフォーマルな表現を重視するのに対し、ドラマではより日常的に使われる表現が多用されることを定量的に明らかにした。特に、短めのn-gram(語の連なり)では両者に類似が見られるものの、長めの n-gramでは、口語的なフレーズの種類に顕著な違いが見られた。 |
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指導教員からのコメント | 本研究は、英語教育における教科書と実際の会話表現の違いを定量的に明らかにした点で評価できる。具体的には、n-gramの分析や品詞解析を実行し、データに基づく比較分析を行った点が特に優れている。教科書の英語表現に関する具体的な改善案を提言し、教育的示唆を与えている点も高く評価できる。また、テキストデータの前処理を丁寧に行い、R言語を活用した客観的なデータ分析も本研究の強みである。 |
戸出ゼミ / 清水 智恵さん / 「教室内における多文化共生の実現に向けて」
要旨 | 日本は内なるグローバル化によって在留外国人が増加傾向にあり、学校現場もインクルーシブな教育の実現という課題を抱えている。本研究は、外国につながる児童生徒ばかりが日本語や日本の文化に慣れるといった努力をするのでなく、マジョリティグループの考え方・態度を改める必要があるという考えに基づき、多文化グループに対して恐怖心を持つゼノフォビア的心理特性をコントロールし、多文化グループと積極的に接触しようとするゼノフィリア的心理特性を育てるための英語教育を考察した。 |
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指導教員からのコメント | ゼノフォビア・ゼノフィリア、人種と言語教育という観点から言語教育の世界的重要テーマに取り組んだ。英語論文を含む豊富な文献研究や子ども向け英語番組の分析に基づいて、「外国人=白人=英米人」という短絡的連想を生み出し正しさ・標準を求める英語教育を是正すべきと結論し、TED Talksや映画等を活用した言語意識教育を考案した。テーマ設定から調査、具体的指導考案まで、すべての段階において熱意をもって取り組むことができた。 |
石田ゼミ / 後藤 直志さん / 「A Syntactic and Semantic Analysis of Complement Controls in English」
要旨 | Control(コントロールまたは制御)とは、不定詞などの明示的な主語を持たない(意味上の)主語が節主語と同一になる現象である(例:John tried to leave early. において動詞のtryが補部としてとっているto leaveの主語は節主語のJohnと同一に解釈される)。一方、seemも不定詞補部をとる (例:John seemed to be sick.) が、tryと比較すると他の構文への出現可能性において大きな差異が見られる。例えば、seemはIt構文やThere 構文で利用できるが、tryは利用できない (例:It seemed that John was sick. vs. *It tried that John left early.; There seemed to be a tornado. vs. *There tried to be a tornado.)。この事実は、Control現象における意味上の主語の分布とその解釈を決定する要因は何かという問題を浮かび上がらせる。本論文は、Hornstein (1999) による統語分析を基盤としつつ、その分析だけでは説明不可能な点を明らかにした上で、Jackendoff and Culicover (2003) が提唱する意味分析の重要性を論じたものである。 |
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指導教員からのコメント | 本論文は生成文法理論において伝統的に議論されてきた言語現象、特にControl現象という難解なテーマに果敢に挑んでいる点で高く評価できる。また、抽象度の高い理論言語学の内容を英語で記述するという挑戦も、当該論文の学術的な水準の高さを物語っている。中でも、先行研究で十分に解明されていないControl現象における意味上の主語の分布とその解釈という問題に対し、Hornstein (1999) の統語分析とJackendoff and Culicover (2003) の意味分析を組み合わせることで、新たな視点を提示しようとする姿勢は注目に値する。単なる先行研究の紹介に留まらず、自身の問題意識に基づいた批判的な視点を持っていることは、この論文の独自性を示している。 |
佐川ゼミ / 吉本 樹生さん / 「シェイクスピア四大悲劇とその独自性について」
要旨 | シェイクスピア四大悲劇──『ハムレット』『オセロー』『マクベス』『リア王』——に於いて各作品の個別的特徴と共通性に注目し、それらが彼の劇作の中で中心的な位置を築いた点について論述している。論文は次のような大きな二点を提示している。第一に四大悲劇はいずれも人間の内面に焦点を当て、その性格や選択が運命に及ぼす影響を深く描いている。第二に四大悲劇に共通する普遍的テーマ──愛、権力、裏切り、孤独──は、時代や文化を超えて観客や読者の心に訴えかける力を持つ。これら二つの要素により、作品から人間性の本質に迫る問いが投げかけられるだけでなく、その問いがドラマ全体を通じて綿密に展開され、観客に深い哲学的思索を促していることを分析している。 |
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指導教員からのコメント | 単一の作品をテーマとして扱う学生が多い中、四大悲劇全てを考察し読み込んだ根気が素晴らしい。テキストの具体的な箇所を根拠として提示している点が最も優れている。歴史的背景についても言及するなど豊富な勉強量が伝わってくるものである。何よりも論理展開にも無駄がなく、相当の時間をかけてテキストを読み込んだことが伝わる優秀な論文である。 |
塩田ゼミ / 池田 凜子さん / 「『タイタニック』が描く愛の象徴性—運命の船で交わった愛」
要旨 | 本研究では、ジェームズ・キャメロン監督の映画『タイタニック』(Titanic, 1997) を映像文学として分析し、さらにウィリアム・シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』(Romeo and Juliet, 1597) における人間関係や恋愛観との比較を通じて、愛の構造について考察した。 |
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指導教員からのコメント | 物語の背景にある階級や身分の差、さらに時代による価値観の変化に伴う愛の構造の変遷について意欲的に分析を行った。ここに「愛」について思想的・哲学的な視点を加えれば、さらに深い考察が可能となるだろう。いずれにせよ、本研究は今後の探求の道しるべとなる有意義なものである。 |