国際ジャーナル「Educational Linguistics」に本学人文学部 戸出 朋子教授と大学院修了生が共著した論文が掲載されました。
本研究のポイント
- トランスランゲージングとは、自分の持つあらゆる言語能力やマルチモダリティを駆使してコミュニケーションすることである。これは、単一言語的な権力構造を批判的にとらえて社会公正を目指す思想である。
- 新英語教育研究会の自己表現は、英語、日本語、絵などを使って自己を表現する活動で、学校の英語教育で、1960年代から引き継がれて実践されている。
- 新英語教育研究会の教師が書いたレポートとそれを支援する学者の著作をテーマ分析し、トランスランゲージングの思想が潜在しているかを分析した。
概要
研究内容
広島修道大学の戸出朋子教授が、保澤昴二郎氏(広島修道大学人文科学研究科博士前期課程修了、現オーストラリアMacquarie University大学院)と共著で、日本の学校英語教育政策に異議を唱える学者と実践者(教師)の言説を、トランスランゲージングの視座を用いてテーマ分析しました。トランスランゲージングとは、自分の持つあらゆる言語資源(日本語や英語など)や意味資源(絵、身体表現など)を駆使してコミュニケーションすることで、バイリンガルの言語使用そのものと言われています。近年、英語指導をトランスランゲージングで行う研究が盛んにおこなわれています(Tian & Li, 2024)が、トランスランゲージング教育として捉え直すには批判性が根底になければなりません(García, 2019; Li and García, 2022)。
本研究では、草の根的な英語教師のネットワークである新英語教育研究会(以降、新英研)の英語教師たちのレポートと新英研を学問的に支援する学者の著作(江利川・斎藤・鳥飼・大津,2014など)をテーマ分析し、実践者・学者それぞれの言説にトランスランゲージングの思想が根底にあるかを探りました。実践者の言説は、自己表現活動に関するものに絞り、2013年から2023年に出版された『新英語教育』誌とその草創期1974年から1979年に出版された『新英語教育』誌から集めました。
分析の結果、新英研の実践者たちは、トランスランゲージング理論を認識していないものの、自己表現活動という授業実践レベルでは、現代も草創期も、児童生徒の言語表現の創造性や批判性をそのままの形で認めるというトランスランゲージングの思想を体現していることが明らかになりました。他方、学者たちの言説にはトランスランゲージング思想は確認できず、むしろ日本語と英語という各言語の規範を重視した単一言語的思想が基盤にあることが明らかになりました。
本研究が示していることは、トランスランゲージング思想は、社会の不公正の現実を経験する児童生徒との現場での関りから生まれるということです。今後の英語教育研究のあり方として、大学にベースを置く研究者が現場に出向き、児童生徒の視点に立った協同的な研究の展開の必要性が示唆されます。
本研究では、草の根的な英語教師のネットワークである新英語教育研究会(以降、新英研)の英語教師たちのレポートと新英研を学問的に支援する学者の著作(江利川・斎藤・鳥飼・大津,2014など)をテーマ分析し、実践者・学者それぞれの言説にトランスランゲージングの思想が根底にあるかを探りました。実践者の言説は、自己表現活動に関するものに絞り、2013年から2023年に出版された『新英語教育』誌とその草創期1974年から1979年に出版された『新英語教育』誌から集めました。
分析の結果、新英研の実践者たちは、トランスランゲージング理論を認識していないものの、自己表現活動という授業実践レベルでは、現代も草創期も、児童生徒の言語表現の創造性や批判性をそのままの形で認めるというトランスランゲージングの思想を体現していることが明らかになりました。他方、学者たちの言説にはトランスランゲージング思想は確認できず、むしろ日本語と英語という各言語の規範を重視した単一言語的思想が基盤にあることが明らかになりました。
本研究が示していることは、トランスランゲージング思想は、社会の不公正の現実を経験する児童生徒との現場での関りから生まれるということです。今後の英語教育研究のあり方として、大学にベースを置く研究者が現場に出向き、児童生徒の視点に立った協同的な研究の展開の必要性が示唆されます。
発表論文タイトル
Translanguaging ideology? Scholars’ and practitioners’ discourses in a foreign-language education context
著者
Tode, T. & Hozawa, K. (2025)
論文へのリンク(DOI)
雑誌
Educational Linguistics
研究助成
科学研究費助成事業 基盤研究(C) 課題番号21K00695