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死体と交尾し、腐敗を見届けたイノシシ~同種の死体に対する有蹄類の貴重な反応を記録~

ポイント

  •  野生下において、メスのイノシシ死体に対してオスのイノシシが交尾行動を行う様子を記録しました。同種あるいは近縁種の死体に対する交尾行動は世界的に稀で、哺乳類では11例目、陸生哺乳類では4例目、そして有蹄類では初の事例でした。
  • オスのイノシシは、交尾行動だけでなく、メスのイノシシ死体が白骨化するまでの13日間にわたって繰り返し訪問し、死体に接触したり、死体の近くで休息したりする行動も観察されました。
  • 交尾行動を行ったオスのイノシシ以外にも2個体のイノシシが接近しましたが、当該のオスのイノシシのような死体への持続的な関心行動は確認されず、死体への反応には個体差があることが明らかになりました。
  • 本事例は、近年発展しているセンサーカメラを通じた野生動物の観察が、動物の生態学としての知見だけでなく、死生学への貴重な知見をもたらす可能性があることを提言しています。

本研究成果は、米国の生態学誌「Ecology and Evolution(略称:Ecol Evol)」オンライン版(6月16日付)に掲載されました。
論文タイトル:Mating Attempts and Sustained Interest Behaviors of Wild Boars (Sus scrofa) Toward a Dead Conspecific
著者名:Akino Inagaki, Kei Okuda, Maximilian L. Allen, and Shinsuke Koike
URL:https://doi.org/10.1002/ece3.73848

概要

東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの稲垣亜希乃特任助教、同大学大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授(同野生動物管理教育研究センター センター長)、広島修道大学の奥田圭教授、イリノイ大学(兼任 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)のMaximilian L. Allen 准教授らの国際共同研究チームは、野生下におけるメスのイノシシ死体の分解過程において、死体に訪れたオスのイノシシが死体に対して交尾行動を行うという世界的にも珍しい事象を記録しました。さらに、交尾行動を行ったオス個体は、死体を摂食しなかったにも関わらず、死体が白骨化するまでの13日間にわたり繰り返し死体に訪問し、死体に接触したり、死体の近くで休息したりと、死体への関心を持続させていました。交尾行動を含む、このような死体に対する複雑な反応は、有蹄類ではこれまで報告がない貴重な記録です。本研究は主に動物死体の分解過程に着目した生態学研究を目的とした調査で明らかになったものですが、そのツールとして使われたセンサーカメラ注1)での動物死体の観察が、動物が他個体の死体に対してどう反応し、どの程度「死」を理解しているかを調査するための死生学研究にも有効であることを示しました。

研究体制

本研究は、国立大学法人東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センターの稲垣亜希乃特任助教、同大学大学院農学研究院自然環境保全学部門の小池伸介教授(同野生動物管理教育研究センター センター長)、広島修道大学の奥田圭教授、イリノイ大学(兼任 東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院・特任准教授)のMaximilian L. Allen 准教授らの国際共同研究チームによって実施されました。なお、本研究はJSPS科研費JP24K23917および東京農工大学大学院グローバルイノベーション研究院からの助成を受けたものです。

内容

すべての動物はいずれ死を迎えます。しかしながら、自然下において動物死体を発見することは難しく、野生動物が同種の死体に対して示す反応は、主に死体の分解過程に着目した生態学や動物の死生観を調べる死生学といった研究分野のいずれにおいても、知見に多くの空白や特定の動物種への偏りがあります。
本研究では、2023年10月1日から11月11日にかけて、栃木県日光市の森林内に1頭のメス成獣のイノシシ死体を設置し、死体が白骨化するまでセンサーカメラによって動画を記録しました。3頭のイノシシが死体に接近し、そのうち1頭のオス成獣のイノシシが10月6日から10月18日の13日間にかけて12回にわたり死体に訪れていました。このオスイノシシの死体に対する行動を詳細に分析したところ、1回目と2回目の訪問(いずれも10月6日)にて、メスのイノシシ死体に対して交尾行動を行っていたことが明らかになりました(図1)。このような死体への交尾行動は世界的に稀な事例であり、哺乳類では11例目、陸生哺乳類では4例目、そして有蹄類では初の事例であることがわかりました。さらには、オスイノシシは交尾行動にとどまらず、死体が腐敗し、白骨化するまでの間に、死体を足で踏んだり、死体のそばで休息したり(図2)といった、メスのイノシシ死体への持続的な関心行動をとっていました。一方で、イノシシは稀に同種のイノシシの死体を共食いすることが知られていますが、今回の事例ではすべてのイノシシが死体(軟組織)の摂食は行いませんでした。
これらの観察をまとめると、死体の摂食以外にも、同種の死体に対する交尾行動や持続的な関心が存在することが明らかになった一方で、死体に対する複雑な反応においては個体差があることも明らかになりました。イノシシは世界的に広く分布する社会性の有蹄類ですが、その社会構造は霊長類や鯨類と比べて単純であり、手厚い子育ても行わない動物です。そのため、死生学分野では研究の対象になっていない動物種でしたが、今回の事例から、よりさまざまな分類群や動物種で観察データを蓄積し、死体に対する反応を比較していく必要性があることが示唆されました。

今後の展望

今回の報告は1事例にすぎず、オスのイノシシがどのような理由で、メスの死体と交尾行動に至ったのか、また持続的にみせた死体への関心行動がどのような目的をもっていたのかまでは依然として不明です。本事例は動物死体の分解過程に着目した生態学の調査研究から偶然得られた結果でした。一方で、今回私たちが用いたセンサーカメラ手法は生態学分野で急速に増加しており、蓄積されるデータも膨大になってきています。このようなセンサーカメラによって撮影されたデータは、死生学分野においても重要な知見をもたらす機会がある可能性を強く提示し、今後ますます研究が発展することを期待します。

用語解説

注1)センサーカメラ
  動物の熱を感知することで自動的に動物を撮影するカメラ。静止画や動画を撮影することができる。

図1.メスのイノシシ死体に騎乗して交尾行動をするオスイノシシ。

動画はhttps://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.73848よりダウンロード可能。

図2.白骨化したメスのイノシシ死体の横で休息するオスイノシシ。

動画はhttps://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/ece3.73848よりダウンロード可能。

研究に関する問い合わせ

・東京農工大学農学部附属野生動物管理教育研究センター 
 特任助教 稲垣 亜希乃(いながき あきの)
 E-mail:fy9865@go.tuat.ac.jp

・広島修道大学人間環境学部
 教授 奥田 圭(おくだ けい)
 E-mail:kokuda@alpha.shudo-u.ac.jp

報道に関する問い合わせ

・東京農工大学 総務課広報室 
 E-mail:koho2@cc.tuat.ac.jp

・広島修道大学 総合企画課広報担当 
 E-mail:kouhou@js.shudo-u.ac.jp

添付資料