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新2年生対象 入学セレモニー 学長告辞

学長告辞

2020年度生のみなさん、こんにちは。あるいは「はじめまして」という言葉が適切でしょうか。広島修道大学の学長を拝命している、三上貴教と申します。イニシャルはTMです。

皆さんの入学式を挙行できなかったことは、断腸の思いでした。昨年の今頃は、小中高も休校の延長線上の春休みとなり、行動範囲の広い大学生への見る眼が厳しさを増している時期でした。変異株があるので、現在も決して楽観視できる状況ではありません。しかし対策の方途においては昨年に比べて改善しています。1年後となりましたが、「広島修道大学への入学、おめでとうございます。」

昨年4月から、既に大学生活は始まっています。ただ授業はオンライン、サークル活動で先輩と直接会うこともない。海外への留学も、厳しい制約があって前へ進めようがない。2020年度生の皆さんの多くは、大学生としての実感を持ち得ていないかと思います。そのすべてを新年度中に挽回することは困難ですが、4年間というトータルな大学生活の中で取り戻せるよう鋭意取り組んで行くことを約束します。この入学セレモニーも、その工夫の一つです。

さて、今日ここでのあいさつ、「はじめまして」が正解なのかどうか、皆さんはどう思いますか。大学案内やウェブで、私自身は機会を見つけては新入生の皆さんに語りかけてきました。何人かはそういう文章に触れたことでしょうし、動画で話している姿を見た人もいるかもしれません。しかし、こうして同じ空間を共有するのは、ほとんどの人にとって初めてだろうと思います。

この状況を比喩的に捉えてみれば、なんとなく構図も見えてきます。私自身は、ニュースを通して菅総理大臣をほぼ毎日みかけています。しかし菅首相と同じ空間を共有したことはありません。ですからもし私が初めて直接菅首相と会って、話をする機会があれば、きっと「はじめまして」とあいさつをするだろうと思います。たとえ映像や、コメントでほぼ毎日接していても、直接会うこととは違います。

一方、オンラインの同時双方向の場合は微妙です。皆さんの多くは教員や職員と直接話をしているはずです。つまり画面越しに出会っています。でもそれは、その人を知っていることになるでしょうか。画面越しに話をしていても、身長や体格、ファッションを含めた個性の伝わる部分は限定的です。やはり直接会うことが大事です。まだコロナウイルスには油断がなりません。それでも万全の注意を払いながら、可能なかぎり対面授業の機会を増やします。

今日初めてここで出会った同級生の数も少なくないでしょう。サークルもままならなかったはずです。注意は続きますが、もし入っていないのであれば、是非どこかのサークルを覗いてみてください。サークルはメインとなる活動をしつつも、そこで生まれる人間関係は濃厚です。2年生からでも決して遅くはありません。関心、興味があれば、一度是非、そのサークルの先輩方の話を聞いてみてください。

大学で何を学ぶのか。動画を駆使した授業を取っていたなら、パソコン画面に超アップで登場する本学の教員からそれぞれの科目について意義を聴いたかもしれません。しかし大学全体としての学びについて聞く機会は、あまりなかったでしょう。
本学は「世界を学び、地域で生きる」を掲げている大学です。なぜ世界を学ぶ必要があるのでしょうか。答えは10人いれば10通りあることが普通です。私は、今日の国際社会においては、それがひとつの教養であるから、と捉えています。東南アジアの某国の著名な大学が、グローバルリーダーを対象とする5日間の「アジア地政学プログラム」講座をオンラインで開く、という広告がつい先日ありました。テーマの例示として「米中対立の深刻化」「テクノロジーの急速な変化」「Brexit」「迫る気候変動」などが挙がっていました。受講料は、5日間で、5000ドルを超えていました。日本円にして、50万円は下りません。このプログラム、「グローバルリーダーのリベラルアーツ」なのだそうです。つまり教養です。

米中関係の行く末を予測することは困難です。しかし機会があれば是非、トゥキディデスの罠や、冷戦期の封じ込め政策について調べてみてください。先行きは決して明るくありません。こうした世界の動向に関する知識は、実は私たちの生きる力と結びつきます。知らなければ見えない潮流に流されるだけです。知識があれば、能動的に行動を起こす、あるいは危機を回避する選択をするなど、選択肢が広がります。

大学は、そういう知識に触れる場です。世界を学ぶ場です。教養を深める場です。教養とは何か。それは専門との関係でよく語られます。私は、大学教育においてのそれは、Tの字を大きくすることだ、と言っています。Tの字を思い浮かべてください。教養とは横のバーです。専門は縦の棒です。バランスよくTの字を書けることが大事です。横が短く、縦だけ長いと、それはいびつなTです。横だけ長くて、縦が短いのも同じです。逆に言うと、横を広げないと、縦も深まりません。大学における教養とはTの字の横ですが、できるだけ長いバーを描き出してください。そうして初めて、下の棒も伸びます。

大きなTの字を描くためには、粘り強さが必要です。Tenaciously という単語も覚えておきましょう。粘り強く、という意味です。もう一つ、綿密にという単語、meticulouslyも紹介させてください。専門知を得るためには、綿密な積み重ねも欠かせません。私のイニシャルもTMです。Tenacious effort and meticulous study will lead you to a trustworthy person.
皆さんの学びに期待しています。
2021年3月31日
学長 三上 貴教