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2020年度学位授与式 学長告辞

学長告辞

21世紀になって、20年が過ぎました。ここにいる皆さんの多くは、世紀末に生を受け、新しい世紀の中で成長し、そして今日、最高学府である大学を後にします。卒業おめでとうございます。よくがんばりました。
 
みなさんの頑張りに敬意を表しつつも、大学を去ることが本当におめでたいことなのかどうか、少し冷めた分析をさせてください。20年を過ぎて振り返ると、日本の20世紀と21世紀は明らかに異なることがわかります。20世紀、特にその後半は、明日は今日より良くなる、と信じることができた時代でした。21世紀に入ると、そう断言できない状況が続いています。テクノロジーの進化は人々の暮らしをより便利なものにするはずでした。経済のグローバル化は人々の生活をより豊かにするはずでした。Social mediaの進展は、人々の結びつきをより強固なものにするはずでした。

しかし、今見える世界は、どうもそうした目論見が外れてしまったのではないか、との疑念を抱かせます。格差はむしろ拡大し、お互いが仲良くなるどころか、いがみ合うことが多くなってしまいました。

世界秩序も揺らいでいます。アメリカの著名な外交誌フォーリン・アフェアーズには、2020年代の10年がきわめて危機的な状況になることを予想する論文が最近掲載されました。100年前の1920年代は確かに危機の最中にありました。世界は第二次世界大戦に突入して行きました。

冷戦が終わって、自由で民主主義的な政治体制が勝利を収めて、大々的な戦争は起こりえなくなるとする見方がありました。ところが実際は、民主主義体制の足元は揺らぎ、自由を制限する権威主義的な体制が自信を強め、その躊躇いのない影響力の行使が、衝突につながりかねない危うさを生み出しつつあります。地球温暖化の危機は現実のものとして迫り、海洋プラスチックは生命への脅威となりつつあります。未知の感染症は瞬く間に世界に拡がり、私たちの暮らしをも変えました。

どうもこれからの旅路、決してバラ色の世界への船出ではないようです。

逆境にある時、どうすれば良いのか。対処法は二つ。一つは立ち向かうこと。もう一つは、逃げることです。逃げるは恥ですが、確かに役に立ちます。ブラック企業にしがみついて、身体を壊す必要はありません。ストレスがたまってどうしようもない時は、好きな音楽を聴いて、いやなことを忘れましょう。映画の世界に浸って、現実逃避だって役に立ちます。大学時代の親友は宝です。社会人として行き詰まったなら、今日この場にいる仲間のことを思い出して、連絡を取ってみましょう。そういう友をこの大学と言う場は作り出したはずです。

さてもう一つの対処法、それは立ち向かうことです。強かに勝負する自信があるなら、思いっきり挑戦してみることを勧めます。大学時代も、留学する、サークルに打ち込む、ボランティアに頑張る、いろいろ挑戦してきたはずです。そうした挑戦が皆さんを形作っています。コロナにガツンとやられたけれども、挑戦する気持ちを萎えさせたわけではありません。自粛はしたけれども、それは、エネルギーをためることにつながったはずです。これからのポストコロナの時代に、思いっきり挑戦してみましょう。

本学大学院で学んで修士を獲得した皆さん、修士論文は知識の集積です。自らの知見に自信もって前に進んでください。

学士(商学)(経営学)を取得したみなさん、実は私も商学士を持っています。ビジネスの世界に進まなかったので、学んだことを直接生かせているわけではありませんが、ゼミの先生の「切れば血が出るバランスシート」という言葉は今も記憶に残っています。ビジネスでは必ず人がいます。数字の羅列であっても、そこに人がいることを忘れずに、活躍してください。

学士(文学)(教育学)を取得したみなさん、人文知はあらゆる学問の基盤をなしています。深く鋭い洞察力と長期的な視座を駆使して問題の探求にあたり、卒業研究、あるいは卒業論文に取り組んだはずです。そうした取り組みは、決して平坦とは言えない人生の中で、必ずや力になります。自己肯定感を高く持ち、困難にも立ち向かっていってください。

学士(法学)(国際政治学)を取得したみなさん、私の専門は国際政治学ですが、実は法学士を持っています。学士編入をした関係で、商学士と法学士の二つをもっています。社会に出ると、あらゆることが法や政治に絡みます。学生時代は実感を得るのが難しかったかもしれませんが、これから、必ず役に立ちます。生半可な学修で学士が取れる分野ではありません。手にした学位を誇りに、しっかりと歩んでいってください。

学士(経済科学)を取得したみなさん、経済活動は第二次世界大戦以後、一貫してわが国の基盤であり続けています。その経済は、かつては世界に冠たるビジネス競争力を誇っていたものが、今やすっかり影が薄くなっています。コロナの影響で、思い描いた状況とは勝手が違うでしょうが、危機を奇貨として、再び日本経済を引っ張る牽引役として頑張ってください。

学士(人間環境学)を取得したみなさん、温暖化をはじめ、環境を巡る動きはこれからの人類の存亡にかかわります。食物連鎖の関係で、マイクロプラスチックが私たちの体内に入ってくる可能性があります。SDGs達成の目標はもうすぐそこの2030年です。人間環境学を学んだ市民として、岐路に立つ人類が正しい選択をできるように、これまでの学びを暮らしに活かしていってください。

学士(心理学)(栄養学)を取得したみなさん、心理学は統計的技法を駆使しなければならず、栄養学は食物に対する科学的知見が必要です。そうした高度に専門的な学習を続けてきた成果が今日の学位です。みなさんは社会において即戦力となりうる知識を得たことになります。大学での学びを武器に、厳しさを増す社会において活躍してください。

20世紀から21世紀にかけて、社会の変化は激しく、大きな断絶があるように見えるかもしれません。しかし、世紀をまたいで、学問分野を問わず我が国の価値観は一貫しています。それはつまり、日本はいつも「豊かさ」を追い求めてきたということです。

もちろん、その豊かさは実に多様です。ある人にとっては、のんびりと自然の中で暮らすことで、またある人にとっては、企業の中で業績を上げて出世し、相応の給与を手に入れることです。日本全国の自治体の中でも広島は、普通の見方をすればかなり豊かです。カープがあって、サンフレッチェ、広島交響楽団があります。文化的な生活をすることに適しています。相応の人口を擁しているので、都市型の商業活動も謳歌できます。私たちのお隣のアウトレットには、遠く中四国の自治体から貸し切りバスが到着しています。他方その最寄りにも、野菜を育てられる環境が十分にあります。

大学も本質的に豊かな場所です。多くの教員が、それぞれの専門分野の知見を授業の中で伝えています。職員は学生が円滑に授業を受けられるように、またトラブルなく大学生活を送られるように、さらには納得のゆく就職活動を出来るように日々尽力しています。皆さん一人一人も、興味関心のあるサークル活動に参加して、仲間と刺激し合い、成長してきたはずです。大学は文化を担う場である。これが私の持論です。文化は、豊かな暮らしと同じコインの裏表です。

大学を巣立つ今、豊かさは自明ではなくなります。豊かな生活を送るために自分で稼がなければなりません。文化的に暮らすために、自ら行動を起こし、そういう場に身を置く努力が必要になります。皆さん自身が挑戦しなければ、黙っていて豊かになれる時代ではありません。

挑戦する気持ちが皆さんの明日を、日本社会の未来を切り開きます。ここにいる一人一人の歩み、道に期待しています。道は続きます。卒業おめでとう。
2021年 3月22日
広島修道大学学長 三上 貴教