2022.09.21

  • 研究

食品のおいしさ・安全性の両立と高齢化社会のQOL向上を目指して

3:すべての人に健康と福祉を 9:産業と技術革新の基盤をつくろう 12:つくる責任つかう責任



 私たちは、どのようにして「おいしさ」を感じているでしょうか?食品のおいしさは、嗜好性や消費者需要に大きく影響し、味(甘味・酸味など)やサクサク、プルプルのような食感(テクスチャー)、栄養成分など様々な要因が合わさっています。私たちは、この複合的なおいしさを五感(味覚・嗅覚・触覚・聴覚・視覚)で感じています。この食品の複雑さこそが「おいしさ」につながり、食品ごとに好まれる風味や食感、さらにはそれぞれのバランスも異なります。
 また、食品は「安全性」も重要です。超高齢化社会のわが国では、嚥下困難者が年々増加傾向にあり、高齢者施設等ではトロミを付与した飲料が提供されています。しかし、トロミ飲料は、べたつきが強く、味覚強度は低下する傾向があり、トロミ添加が必要な嚥下困難者・高齢者に受容されにくいのが現状です。そのため、飲み込みやすさ等の安全性に適したテクスチャーと良好な風味の両立は重要な課題です。
 
 そこで、本研究室では、様々な食品を対象に風味、食感など「おいしさ」に影響する要因や私たちがこれらをどのように知覚しているかをテーマに官能評価(人の感覚)と種々の機器分析を併用し、官能評価に対応する力学的特性の解明を行っています。機器分析には、口腔内を模したテクスチャー測定ができる新規手法のShort Back Extrusion method(SBE 法)*を大学で初めて導入して活用しています。一例として、イチゴジャムでは、イチゴジャムの官能特性(甘味、かたさ等)が特性ごとに異なる力学的特性(見かけ粘度など)を指標とし、それに基づいた「ずり速度」等から口腔内状態(唾液の有無、舌の動き、温度)と知覚順序を推測しました(図1)。得られた成果は、人の感覚に対応する指標(力学的特性)をもとに理想とする風味やテクスチャーの商品開発や配合検討などを行うことで、「おいしさ」の向上、さらには、豊かな食生活と健康に繋がると考えています。食品の「安全性」については、トロミ調整食品やお粥などを用いて官能評価(飲み込みやすさ、口腔内におけるべたつき等)に影響する力学的特性の把握にも取り組んでいます。
 これらの研究成果からは、トロミ飲料などの誤嚥リスク低減、口腔内状態の改善、風味向上などの活用へ展開し、「おいしさ」と「安全性」の両立を実現することにより、高齢者のQOL(生活の質)向上に貢献したいと考えています。
 
*SBE 法:高粘度試料のテクスチャーを精度よく測定できる新しい物性測定法。
 
  


健康科学部 助教
黒飛 知香

専門分野:食品学、官能評価
主な研究テーマ:食品のおいしさや嚥下に寄与する要因の把握および数値化
主な論文・著書:
・Relationship between sensory analysis for texture and instrument measurements in model strawberry jam.(査読付き),Cover採用,共著(FA),J Texture Stud. 49,p.359–369.(2018)
・Influence of physical properties on the taste and flavor of strawberry jam.(査読付き),共著(FA),J Texture Stud. 52 (2),p.260–274.(2021)
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