2006年に改正された教育基本法では、第3条に「生涯学習の理念」が盛り込まれ、「国民一人一人が、自己の人格を磨き、豊かな人生を送ることができるよう、その生涯にわたって、あらゆる機会に、あらゆる場所において学習することができ、その成果を適切に生かすことのできる社会の実現が図られなければならない」という条文が新設されました。ここから、日本の生涯学習政策では、だれでも・いつでも・どこでも学ぶことに加えて、学んだ成果が生きてくる社会を目指そうとしています。
では、何を目指して学んだ成果を生かすのかと言えば、「豊かな人生を送ることができる」ために加えて、2008年の中教審答申にあるように、「総合的な「知」が求められる」社会からの要請であったり「自立した個人の育成や自立したコミュニティ(地域社会)の形成の要請」、「持続可能な社会の構築の要請」であったりします。つまり生涯学習には、本来の目的である、一人ひとりの人生を豊かにすることに加えて、地域や社会を持続することが使命として求められるようになってきています。
こうした社会動向を背景として現在の私の研究テーマ「学びから始まる持続可能なひとづくり・地域づくり」は成り立っています。このテーマに関連して最近力を入れているのは、第1に学びと地域づくりに好循環をもたらす仕組みづくり、第2にその仕組みによって生まれる学習の社会的成果としてのシビック・エンゲージメント(「自分の暮らすコミュニティでの生活に変化をもたらすために働きかけること、そのために知識、技術、価値および動機を発達させること」)、第3にその仕組みづくりを促す要としての学習支援者の研究です。3つは独立しつつ結びついていて、国内外の都市を対象に研究を進めています。
例えば、広島県では、広島県立生涯学習センターの生涯学習推進マネージャーという役割を担う中で、「広島版学びから始まる地域づくりプロジェクト」を通して広島県や県内市町の職員さん達と共に市町や地域に生涯学習の仕組みを創り・動かしながら、実践研究として取り組んでいます。
先進都市である兵庫県神戸市や福岡県久留米市でも検証をさせてもらっています。コロナ禍が落ち着けば、エスポー(フィンランド)やオーフス(デンマーク)、ミラノ(イタリア)等を巡り、学びから始まる持続可能な都市とそこに住む人の研究をさらに進める計画です。エスポ—とミラノは、ユネスコによって持続可能な学習都市(sustainable learning cities)に認定されている都市です。欧州では1990年代頃から学習都市(learning city)や学習地域(learning region)という概念が広がりをみせていて、その都市や地域に住む人が学ぶことで都市や地域が成長することが実証されています。社会インフラとして生涯学習があることで、都市や地域、学ぶ人にどのような成果が生まれるのかを検証したいと考えています。
生きている限り人は幸せを望みます。すべての人が幸せを実感できる日常とそうした日常が社会の持続の源になるような仕組みや実践を創る研究を微力ですが続けていければと思います。