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経済科学部 黒阪健吾先生

マッチングアルゴリズムを用いた農地集約

経済科学部准教授 黒阪 健吾(くろさか けんご)先生

北海道大学大学院 経済学研究科 博士後期課程修了
博士(経済学)
専門分野:実験経済学、政治経済学
主要研究テーマ:マッチングアルゴリズムを用いた農地集約

経済学のマッチング理論と呼ばれる分野で提唱されているアルゴリズム(計算規則)を用いて、農家ごとに分散している耕作地を農家どうしで交換することで、耕作しやすい形にまとめる集約案を自動的に作成するシステムを開発しています。

日本の農家の耕作地は広い範囲に細かく分散しているという特徴があります。そのため、農家は圃場間の移動に作業時間の少なくない割合を取られてしまい、大きな機械を導入するメリットも小さくなっていると言われています。たとえば、担い手として標準的である約14haの水田を耕作している農家の作業時間をGPSで計測したところ、トラクターを用いて行う56.6時間の作業のうち、15.3%にあたる8.6時間が移動時間だったという研究もあります。このような事情から、日本の稲作農家では10ha以上に耕作規模を拡大してもコストが下がらない、いわゆる「10haの壁」と呼ばれる問題が指摘されています。

もし農地を耕作しやすい形に集約することができれば、農業生産の大幅なコストダウンを実現することができると考えられます。また、集約することで作業時間が浮き、今後も増加が見込まれる離農者の耕作地を引き継ぐ余裕も生まれるため、農地のさらなる集積にも繋がると考えられます。このように、農地の集積と集約を進めることは、農家の所得向上にとって極めて重要な課題であると言えるでしょう。

私が現在行っている研究プロジェクトでは、岩手県や盛岡市と協力して地区の担い手農家を対象とした耕作意向情報、具体的には「このエリアは自宅から遠いから耕作したくないな」という意向や、「このエリアは自宅から通いやすいから耕作したいな」という意向を、タブレット端末を用いて収集しています。そのうえで、集まった耕作意向情報を経済学のマッチング理論と呼ばれる分野で提唱されているアルゴリズム(計算規則)を用いて、参加者の意向が反映された納得しやすい集約案を作成しています。

これまで耕作地の集約案は、農家が長い時間をかけて話し合いながら、基本的には自治体が手作業で作成していました。とても時間がかかる作業ですし、そもそも人間の直感だけで参加者全員が納得できる案を作ることは至難の技です。私の研究プロジェクトの目標は、農家の意向を十分にくみ取ることで納得感が高い集約案を、短時間で自動的に作成できるシステムを開発することです。現在3年の研究期間の1年目が終わる段階で、本年度は農地集約システムの基本的な構造について特許を申請することができました。また、初めての実証実験で作成した交換案に対して、参加者からはおおむね好意的な反応を頂くことができました。2年目以降は実証実験を重ねることで、農地の集約効果を多角的に評価しつつ、より参加者から高い満足度を得ることができるよう、システムの改良に取り組む予定です。

※掲載内容は全て取材当時(2023年3月)の情報です。