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法学部 伊藤 嘉亮先生

研究室の扉

「共犯論」を語る

法学部 伊藤 嘉亮(いとう よしすけ)先生

ようこそ、わたしの研究室へ

はじめまして。私が大学で担当している科目は「刑法」です。刑法は、犯罪と刑罰に関する法律です。犯罪や刑罰と聞くと、自分とは関係のない世界で
あるように感じる人もいるかもしれません。しかし、実際は、誰にでも被害者、加害者、あるいは裁判員として刑法に関わる可能性があります。刑法
は、そういう意味では、最も身近な法律であるともいえるでしょう。
私は、大学院進学以来、「共犯論」というものを専門的に研究してきました。複数人が協力しながら犯罪を行った場合に、彼らはどういった責任を負
わなければならないのか、といった問題を扱う研究分野です。今、この共犯論との関係で注目を集めているのがオレオレ詐欺などの「特殊詐欺」です。そこで、今回は、共犯論と特殊詐欺が交錯する重要なテーマを紹介したいと思います(専門的には「承継的共犯」と呼ばれるテーマです)。

特殊詐欺とは?

伊藤准教授が一部執筆した特殊詐欺を特集した専門雑誌

「特殊詐欺罪」という名称の犯罪があるわけではなく、詐欺罪(刑法246条)のうち、特殊な方法を用いて行われる場合のことを特殊詐欺と呼んでいます。ニュースなどでよく報道されているので、ご存知の方も多いと思いますが、犯人が電話などで被害者の家族や公共機関の職員などを名乗り、それを信じた被害者から現金やキャッシュカードを騙し取る手口のことを特殊詐欺といいます。
特殊詐欺の特徴は、特定の被害者を決めることなく、手当たり次第、被害者になりそうな人たちに声をかけるところにあります。また、特殊詐欺にはもう1つ重要な特徴があります。それは、詐欺グループのメンバー構成に関するものです。詐欺グループの中核にいる人たちはある程度固まっていると思われますが、末端のメンバーともなると、頻繁に入れ替わります。例えば、受け子(被害者から実際に現金などを受け取る役割を担う人)については、いわゆる「闇バイト」として、その都度募集をかけることもあるようです。

途中から参加した人にも詐欺罪成立?

こうした末端メンバーをめぐって、私たちは、非常に難しい問題に直面することになりました。
詐欺罪は、①被害者を騙し、②騙された被害者から現金などを受け取ることで成立する犯罪です。しかし、受け子などの末端メンバーについては、かけ子(被害者に電話をかけて騙す役割を担う人)が被害者を騙すことに成功した段階で募集がかけられることも多いことから、受け子の中には① に関わっていない人もいます。①には一切関わっていないにもかかわらず、詐欺罪で処罰することはできるでしょうか。
日常生活においても、自分が関わっていない出来事について責任を問われることはないはずです。刑法の世界でも、通常は、そのように考えられています。しかし、特殊詐欺の受け子が①の部分について責任を負わないとなると、詐欺罪は成立せず、無罪になってしまいかねません。詐欺に加担することを分かって受け子役を引き受けたにもかかわらず無罪になる、という結論には納得できない人も多いのではないでしょうか。ここに、私たちが頭を悩ます難問があるわけです。
以上の問題について、最高裁判所は、受け子役の被告人は①の部分についても責任を問われ詐欺罪で処罰される、との結論を下しました(最決平成29年12月11日刑集71巻10号535頁)。最高裁判所がこのように判断したことから、以後は、途中から詐欺に加わった人にも詐欺罪が成立するようになりました。もっとも、これですべてが解決したわけではありません。刑法は、犯罪者に「刑罰」という重い制裁を科します。それゆえ、その結論に犯罪者側も納得せざるを得ないだけの説得力ある根拠を示さなければならないわけです。しかし、残念ながら、そのような根拠は未だに提示できておらず、今後の課題となっています。

特殊詐欺におけるその他の問題

特殊詐欺は、その他にも様々な課題を私たちに突きつけています。
例えば、特殊詐欺に関わっていた人が途中で詐欺グループから抜けた場合、その後に他のメンバーが行った詐欺についても責任を負うことはあるでしょうか。あるいは、メンバーの一部が他のメンバーに黙って被害者からお金を騙し取り、そのお金を独り占めした場合、他のメンバーはそれでも詐欺罪に問われるでしょうか。これらも、共犯としての責任を問うものである以上、「共犯論」の立場から取り組まなければならない課題だといえます。
他のテーマと関係する問題もあります。例えば、受け子役の人が犯行に加わる際には、他のメンバーから詐欺である旨が明確には伝えられないことが多いようです。それにもかかわらず、受け子役の人には詐欺罪の「故意」があるといえるでしょうか。いわゆる「未遂犯」との関係で特殊詐欺が問題になることもあります。従来、詐欺未遂が成立するのは、お金などを渡すよう被害者に要求した時点であると考えられてきました。しかし、特殊詐欺の場合、これでは警察が介入できるタイミングとしては遅すぎると言われています。そこで、被害者に電話をかけ、身分などを偽った時点で詐欺未遂を成立させてよいかが議論されているわけです。
いずれも、承継的共犯の問題と同様に、未だ解決には至っていない難問ばかりです。

大学での勉強の難しさとおもしろさ

ゼミナールの様子(Zoomによる非対面型授業)

高校までと違い、大学で取り組む問題に「答え」は用意されていません。途中から参加した受け子の罪責をめぐっても、最高裁判所が一応の結論を示してはいますが、詐欺罪の成立を認めることが唯一の答えではありません。また、仮に詐欺罪を認めるとしても、その結論を説明する筋道は1つだけではありません。決まった答えがない中、自分たちで探さなければなりません。そもそも「問題」や「課題」が用意されていない場合すらあります。その場合は、一から、何を議論するべきなのかを自分たちで考えなければなりません。これが大学での勉強の難しさでもあり、おもしろさでもあります。
皆さんにも、悩みながら自分なりの「答え」へ一歩一歩近づいていくことの醍醐味を味わって頂きたいと思います。

プロフィール

人文学部/法学部 伊藤 嘉亮(いとう よしすけ)准教授
早稲田大学 大学院法学研究科 公法専攻 博士課程修了 博士(法学)

▽専門分野
刑法学
▽主な研究テーマ
共犯論、共謀罪、AI・ロボットと法

※掲載内容は全て取材当時の情報です。