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2018/04/01【総務課】2018年度入学式 学長告辞

2018年度入学式 学長告辞

 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。またご臨席いただきましたご家族の皆様、御子息御息女の最高学府への入学、お祝い申し上げます。真新しいスーツはまだ身になじんでいないことでしょう。しかしこれからの広島修道大学での経験が大きな自己の成長をもたらし、生まれ育った地域、日本、さらには世界を牽引しうる人材へと一人ひとりが育っていくであろうことを、楽しみにしています。
 今日はそうした将来につながる新たな一歩を踏み出した日です。もちろん皆さんの前に続く道は、これまで踏みしめてきた歩みがあって存在しています。後ろを振り返れば、いろいろなことに挑戦し、険しい道も乗り越え、また時には挫折もしてきたことでしょう。これから続く道も、やはり平坦ではないはずです。しかしその道は、あなた自身が作り出していくものです。どういう努力を重ね、何を身につけ、誰と共に歩むかによって変わってきます。
 ただ一つ確かなことは、皆さんの大学生活ならびに大学院における歩みは、2018年のここ日本の広島市、安佐南区の大塚東1-1-1という場所からスタートすることです。学部としては、健康科学部の2年目がスタートし、そして国際コミュニティ学部は文字通り最初の第一歩をここから踏み出します。
 今という時代を考えてみましょう。
 内閣府が毎年行っている、「現在の生活に対する満足度」の世論調査があります。入手可能な最新のデータ、2017年の調査結果では、満足している人は73.9%、不満と答えた人は25.0%でした。皆さんはどちらでしょうか。
 この数値が良いのか悪いのか、単年度での判断は難しいところです。では、一昔前はどうだったのか。30年前に遡ってみます。皆さんのお父さん、お母さんの多くが、ちょうど皆さんのように青春時代の真っただ中にあった頃かもしれません。いや、私はそんなに年をとっていない、というご両親もたくさんいらっしゃるでしょうが、一世代30年ともいいますから、節目として1988年に遡らせてください。平成がはじまる1年前、昭和最後の年です。
 この年の調査結果によると、満足64.6%、不満足34.5%です。今よりも不満な人が多かったことになります。なぜでしょう。経済的にはバブルの絶頂期です。
 この年には東京に次いでアジアで2番目の開催となったソウルオリンピックがありました。記憶に残るアスリートは現在の鈴木大地スポーツ庁長官です。日本の金メダル数は4個で、メダルの順位では世界で第14位でした。その前の夏季大会、ロサンゼルスでは世界で第7位、ボイコットをして不参加だったモスクワの前のモントリオールでは世界で第5位でした。因みに皆さんの大先輩である田口信教(のぶたか)氏が金メダルを獲得したのは1972年のミュンヘン大会、この時の日本のメダル獲得数順位はやはり世界で第5位でした。
 バブル期は、地道な努力よりも、一攫千金的な何か浮ついた雰囲気に社会が包まれていました。真剣に努力を積み重ねなければ到達できないオリンピックのメダルは、30年前の日本人にとっては少し遠い目標となっていたのかもしれません。
 10ポイント近くも差がある、満足感の違いはどこにあるのか。分析のために、その年1月の首相の施政方針演説を紐解いてみます。その当時、内閣を率いていたのは竹下登首相でした。タレントDAIGOのおじいさんです。DAIGOは女優、北川景子の夫です。竹下首相は、「ふるさと創生」をキャッチフレーズとして使いました。今も続く、地方創生の先駆けです。
 財政については次の世代に過剰な負担を残さないよう、公債依存度の引き下げ、さらなる財政改革の推進を謳い、高齢化社会の到来、一層の国際化を考えるとき、抜本的な税制改革が最重要課題である、としました。教育改革も重視し、子供たち一人ひとりの個性を生かした創造的で多様な教育の実現を目指し、道徳教育の充実、教員の資質向上、大学入試制度の改革などを着実に実行に移していく、と述べています。
 「ふるさと創生」に見られる地方の活性化、財政改革、税制改革、高齢化社会、国際化、教育改革と、掲げられている課題は現在と驚くほどよく似ています。
 安倍首相の今年の施政方針演説も見ておきましょう。
 まず「働き方改革」が強調されています。子育て、介護など、様々な事情を抱える皆さんが、意欲を持って働くことができるように大改革を行う、との主張です。人づくり革命、生産性革命の項目には、大学の在り方も今のままではいけない、イノベーションの拠点となる大学改革を進めると述べています。地方創生の一環として、地方大学の振興も掲げられています。
 両演説の違いはどこにあるのでしょうか。少子高齢化を国難と位置付けるのは現在の施政方針です。イノベーションの有無も大きな違いです。満足感の違いは、深刻な問題はあるけれども、それに慣れてしまい、きっと克服できるとする楽観主義によるのでしょうか。あるいは欲しいものはおおかた手に入り、スマホによる利便性の向上もあって、孤独感も薄まったことによる上昇でしょうか。
 社会現象を分析し、その理解の試みとして理論的概念化があります。個人主義の蔓延はミーイズムとして捉えられました。今の生活に満足して、敢えてラディカルな改革を求めない傾向は生活保守主義と呼ばれました。それらになぞらえれば現代社会は、密ではないけれども拡張したネットワークにおいて一定の存在感を誇示できるスマホ満足主義の時代と言えるのかもしれません。スマホ満足主義、この命名、あまりピンときませんか?
 『勉強の哲学』という本の中で著者の千葉雅也は、勉強とは何かの専門分野に参加することだ、と述べています。問題意識を持ち、敢えて抽象的で堅いキーワードを探り出し、それを専門分野に当てはめることだ、と説きます。
 養老孟司は『「自分」の壁』という本の中で、高校までと大学以降の勉強の違いを記しています。「高校までの勉強は、先生が出した問題を解くことが主です。しかし、大学ではそうはいきません。『何が解くべき問題なのか』を自分で考えるようになっていかなくてはならない」と指摘します。
 大学の学びで大切なことは「問い」です。どうすればモノが売れるのか。人がより良く生きるとはどういうことか。社会のルールは今のままで良いのか。アメリカファーストと自由貿易は両立しうるのか。経済成長と地球環境保全は矛盾しないか。こころとからだを元気にするにはどうすれば良いか。地方消滅を避ける施策は何か。探求すべき問いは皆さんの前に数多くあります。
 スティーブ・ジョブズの有名な言葉に、<Stay hungry. Stay foolish. ハングリーであれ。愚か者であれ。> があります。
 iPhoneを世に送り出し、アップルコンピュータを再生させたジョブズほど、イノベーティブな人はいないかもしれません。
 イノベーションの原動力は問う力です。こんなことを質問したら、周りにバカにされるんじゃないだろうか。それは世間体を気にしたお利口さんの発想です。ジョブズがいう愚か者は、そうしたお利口さんとは正反対の人です。
 イェール大学の学長を務めたリチャード・レビンは、日本が後れをとるようになったのは、継続的なイノベーションが出来なかったからだと指摘します。大学に求められるのは、問題を解決し、イノベーションを促し、社会をリードしていくのに必要な、思想的な奥行きと建設的・客観的なクリティカル・シンキングを持つ人材を生み出すことだとも述べています。
 クリティカル・シンキングも出発点は問うことです。大学の勉強は問いを設定し、それを解こうとするプロセスそのものと言っても良いかもしれません。私はそれを学問的な道と呼びます。道は続きます。その道があなたを変え、あなたを強くします。
 再びジョブズの言葉を引用しましょう。<旅の過程にこそ 価値がある。The journey is the reward.>
 この広島修道大学で、道へとつながる確かな一歩を踏み出してください。
 御入学おめでとうございます。

2018年4月1日
広島修道大学学長 三上 貴教

  

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